双龍の嫁
第3章 茶話会
今宵の風はさざ波のように凪いでいます。
わたしたちはようやく初秋の夕涼みに相応しく、心地好い虫の音を聴きながら元来た道へと歩き始めたのでした。
─────といっても、わたしは背中と膝を支えられて宙に浮いているだけですが。
「元の姿は魚に似た方ではないのですか?」
「以前に話したかな。 そもそも人間は龍から分かたれた訳だから、本来の姿は人の方だね。 ただ長く生きていると、その地に順応した姿の方が過ごしやすいというだけで」
「それだけではないだろう。 奇怪な姿でもって他人をからかう悪い癖が貴殿にあるのは知っているぞ。 だからいつぞやも、馬鹿な人間どもに妖魔のような扱いをされたりするのだ」
「ふふ。 あの姿は人の隠されたものをみることが出来るからね」
人に隠された心。
たしかに人間は色々なものを取り繕って生きています。
そして璃胡に対する火龍のように、そのような相手とは互いに好意を持っていたとしても、なかなか真っ直ぐには向き合えないものなのでしょう。
「だからといって、沙耶にまでそうするのは悪趣味ではないか? あの姿は生娘にとって恐怖でしかないだろう」
そういえば、水龍と初対面の時のあの姿も、わざとだったのでしょうか。
よくは分かりませんが、『水龍は臆病ではない』そう話してくれた風龍の言が今は理解出来ました。
「風龍。 わたしは全然気にしてないですよ」
「あの馬鹿でかい逸物を見てもか?」
「馬鹿でか……」
確かにそうなのですが、あからさまに言われるとその様相を思い出してしまい、羞恥が先立ちます。