双龍の嫁
第3章 茶話会
「まあ、しじみ! わたし、大好物ですわ。 あの滋味に溢れた風味を溶かした出汁といったら……」
「もちろん揚げ芋も用意しているよ」
目を伏せてうっとりと今宵の夕げに思いを馳せる潤香を見ながら、土龍はにこにこと微笑んでいます。
少し世間とは役割が異なるかもしれませんが、俗にいう胃袋をつかまれる、というのはこのことなのでしょう。
なんにしろ、土龍のところも安泰なようです。
土の夫婦に別れを告げ、まるで母と息子のようにも見える彼らの後ろ姿を見送っていたわたしに、水龍が言いました。
「さて沙耶、私たちもそろそろ帰ろうか」
「そうね……あら、風龍?」
行く先に人影が動き、よく見ると茶屋の出口の前に、風龍が座っていました。
彼は何をしていた訳でもなさそうで、わたしたちの姿をみてほっとした表情を浮かべています。
「お前たちがあんまり遅かったから心配したぞ。 なにやら暗くなって急に暑さもましになったから……ん? なんだあれは」
彼の視線の先にはいまだ抱き合っている火龍たちの姿が遠くに見えます。
「さあ……でも、暑さが和らいだのは暗くなったせいばかりじゃないと思いますけど」
「そうだね……風の。 何をしてるんだね?」
水龍が怪訝そうに聞きました。
それは風龍がわたしに近付いたなり、ひょいとわたしの体を抱き上げたからでしょう。
「沙耶は私だけではなく、水のしるしも分け与えられている存在だからな。 こうしてるとひんやりとして居心地がいいのだ」
「お前は相も変わらず……少しは人目というものを考えなさい」
「なんだ? 別にこうするのは水龍。 貴殿でも構わないぞ? 出来れば体積的に元の姿の方が有難いのだが」
悪びれもせずに片手を差し伸べて言う風龍に水龍は嫌そうな視線を返し、それでも地上では歩きづらいのだと思います。
再び彼が青年の姿に戻りました。