双龍の嫁
第4章 双龍の嫁
昨日に居た岩場に近付いたものの、今晩はどこで過ごすかと考えた挙句、わたしたちは川のそばにあった空き小屋に一宿を借りることに決めました。
空き小屋といっても荒れている様子もなく、多少のほこりを払うなど風龍には造作もないことです。
それでも風の龍がきちんとした宿に泊まるとは珍しいことなのですが、どちらかというと彼がそれを望みました。
「龍同士、たまには積もる話もあるし……それに、夫婦三人で過ごす機会など滅多になかろう?」
そう言った風龍にわたしも大きく頷きました。
先ほどから感じていたのですが、彼らの関係というのは不思議なものです。
旧くからの馴染みというのは解りますが、それと共に兄弟や家族に似たようで、戦友という表現にもしっくりとくるような。
そんな彼らの気の置けないやり取りはこちらの気までほぐさせ、ましてやそれが自分の夫たちだと思うと、まるでわたしまで彼らの内面に触れられるような気分になり、わたしの心までもそわそわと浮き立ってしまうのでした。
道すがらの民家から分けて貰えたわたしのための食料と少しのお酒を広げ、わたしたちはめいめいに広間で寛いで過ごしました。
「龍もお酒などをたしなまれるのですね」
多少ぐらいは。そう言ってぐい呑みに顔を近付けた風龍はその香りを鼻腔に含ませるようにゆっくりと傾け、ほんの一口注いで唇を濡らしました。
「良い米を使っているな。 酒は水龍の方がやる方だろう」
「美味い水ならなんでも歓迎だね。 酒でも山羊の乳でも蜂蜜でも……酔うたことはないが。 沙耶もどうだい? せっかくの上等なものだし、味見程度でも」
「あ、わたしは」
「ん?」
「……いただきます」
一旦は断りかけましたが、風龍を経て手渡されたぐい呑みを水龍から受け取るとわたしはそれをじっと見つめました。