双龍の嫁
第4章 双龍の嫁
高貴な方々の婚姻では、夫婦が盃でお酒を飲む場面があるそうです。
そんなものを頭に浮かべてそれを口に運び、喉を通るときに熱くなるのを覚えましたが、その後とろりとした液体が体に染み渡っていくようでした。
「美味しい……」
「だろう? 前回はあまり気をつかってやれなかったが、私たちも今後は土龍を見習って、お前に良いものを食べさせてあげなければね」
「全くだな。 ちらと見ただけだが土龍の花嫁、あれぐらいふくよかな女もいいものだ。 お前がか細いと、私たちが甲斐性のない夫だと思われる」
「……本当にお前は素直じゃないね」
伏せ目がちに盃を傾ける水龍の言葉に、風龍は「ん?」とでも言いたそうな表情で応えました。
わたしは元々粗食な方だったので気にしませんでしたが、そんな風に思いやってくれるのがおもばゆくて、「ありがとうございます」そうお礼を言う声がつい上ずってしまいました。
「ところで沙耶。 先刻の、食糧を分けてくれた家の婦人は知り合いかなにかだったのか? なにやら親しげな様子だった」
「あの方は……わたしが小さな時にお世話になった方です。昔、母の友人だったらしく」
「近所付き合いというやつか? なるほどな」
彼らがわたしの事をどこまで知っているのかは分かりませんが、さして面白くもない話題で暗くなってしまったら。 そうなるとこの場に水を差してしまうように思いました。
それで当たりさわりのない返事をしました。
「はい。 小さな時によく遊んでくれた方です」
「よき隣人に恵まれたのだな」
「……わたし、少し川で顔を洗ってきます。 何だか熱くって」
そのついでに、ぼうっとしかけた頭も覚めるだろうとわたしは立ち上がり、水龍の声があとを追いました。
「酒のせいだろうね。 すぐ近くだからといっても、夜道だから気をつけなさい」
「はい」