騎士様は私のボディーガード
第1章 騎士様、降臨です!?
「ごっめ~ん! 楠さん、これも頼めるぅ?」
定時の時間まで、あと5分。
目の前に積まれているファイルでさえもまだ終わりそうにないのに、更に仕事を追加された。
「あ、あの……! 私、今日はっ……」
「どうせ帰ってもやることないんでしょ? 私、彼氏とデートだから。よろしくねぇ」
私の話なんて聞く耳もたず。
広瀬さんはデスクに置いてある鏡で容姿を整えると、むせかえるほどの香水を撒き散らして事務所から出て行った。
「はあ……今日こそは早く帰ろうと思ったのに」
私は誰もいない事務所で独り言を呟いた。
転職活動してやっと入れた小さな建設会社の事務所は、定時までほぼ私と広瀬さんしかいない。
社長や職人さんたちはみんな現場に行ってしまうため、いつも広瀬さんのやりたい放題だった。