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会社での出来事

第2章 2

彼はそのまま、離れると何事もなかったかのように笑んだ。

「じゃ、また、会社でね? 」

私もこくりと頷き、改札に定期をかざす。心臓の音が無闇矢鱈に鐘を着くようにうるさく感じる。ホームについて、ぼんやりと唇に触れる。キス以上のことはしてるのに、それなのに……。

ぼんやりとした頭で電車を待ってると、突然お酒臭い何かが私の肩を掴んだ。

「お!可愛いじゃん!何してんの?仕事帰り???」

知らない男が真っ赤な顔をしてにやにやと嫌な笑顔を浮かべている。私はこの手の酔っぱらいにはよく絡まれるので、どうやって切り返そうか考えていた。男は無言の私を抱え込むように抱きしめてくる。

さすがに固まる私。あぁ、酒臭い息かけんじゃねーよおっさん。心の中で毒づきながら離そうとした。


「オッサン、あたしの連れになんか用なの??」

低い声がふわりとホームに木霊する。男の身体が離れたと思うと、汚い叫び声が鳴り響いた。なんと、投げられた、のだ。

成人の男を投げ飛ばした主の姿を見ようとすると、細い身体にゴスロリの服装をみにつけた女性が仁王立ちしていた。

「ふぅ、酔っ払いがナンパしようなんて100年早いのよ」

そう言い捨てると彼女は私の方を振り向く。

「大丈夫? 怖かったわよね???最低な男に絡まれて可哀想に……立てる??」

言われて気づいたが私は腰を抜かして座り込んでいたらしい。まぁ、目の前の成人を越してる男がか弱そうな女の子に綺麗に投げられてるのを見て腰を抜かさない人間はいないだろう。

「す、すみません、ありがとうございます」

ぺこりと頭を下げ、彼女を見つめた。パッチリしたお目目にスっと通った鼻筋、白い肌に薄い桃色の唇。美人、と形容しても大袈裟ではなかった。

その気のない私でさえ見惚れてしまう綺麗さ。

「ん?あたしの顔になんか付いてるかしら??」

ぽかんとした顔で見つめてると不思議そうな顔をする彼女。顔に見合わずハスキーボイスなのだ。

「ごめんなさい、あの、お姉さんがあまりにも綺麗で……見とれちゃいました……」

思わず素直に口走ってしまう。何言ってんの?!私!!!冷静なもう一人の自分が突っ込んでいた。

「えぇ!うそ!?ほんと?!やだー!嬉しいー!」

子供みたいな表情ではしゃぎ、彼女はぴょんぴょんと飛び跳ねる。後ろから呆れた声で声をかけられるまで跳ねてた彼女。

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