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機動戦士ガンダム~砂塵の恋~

第1章 砂漠のバー🥃

砂漠の街には砂の嵐が吹き荒れていた。
昼は灼熱の地獄で夜は凍えるほどに寒い。
こんな所にも住む人たちはいる。

この街に住む人たちは心に深い傷を負って、生きているとも死んでいるともつかない日々を虚ろに過ごしていた。

地球連邦軍とジオン公国が覇権を懸けて戦った一年戦争と呼ばれる大きな戦いは人口の半数という大きな犠牲を出し、街を破壊し、地獄をもたらした。

砂漠の過酷な街は戦争によって傷ついた者たちには丁度よい場所なのかも知れない。

砂漠の街の片隅にある酒場には心に傷を負った人たちが癒しを求めてやってくる。
戦争で大切な人を失ったり、街や故郷をなくしたりと哀しみは尽きない。

決して深入りはせずに程よい距離感を保って共に酒を酌み交わして話を聞いてくれる無口で無愛想なマスター、モスコ・ロメオの人柄と、時々店にやってきては美しい歌を歌ってくれるシェリー・ミドルの歌声が傷ついた者たちの心を静かに癒してくれる。

「軍にはもう戻らないのかい?」

常連のキャメル・キャルロがロックのウイスキーを飲んでモスコに話しかける。
モスコもキャメルもかつてはジオンの兵士として戦った戦友である。

「戦争なんてのは、もうまっぴらさ。俺はこの街で弔いのために生きている。それでいい」

と言ってモスコは不自由そうにロックのウイスキーを飲んで色褪せた写真を見る。写真には不敵に笑う美人な女性が写っている。

「いつもこの調子なのよ。こんなにいい女が傍にいるのにね」

シェリーもモスコたちの近くに来て赤ワインを飲んで写真の女のように不敵に微笑む。

「あんたはいい女だよ。まるで姐さんの生まれ変わりのようだ」とモスコは眩しそうにシェリーを見る。

「だから、わたしを見ると姐さんに重ねて見えてしまうのかしら」

シェリーはまた微笑んで想い出になってしまった女には勝てないかと小声で言った。

「いつも、つまらない話を聞いてもらってるんだ。たまには話を聞くぜ」

キャメルはモスコとグラスを重ねる🥃

キャメルは新婚だったが、戦火に焼かれて妻も生まれたばかりの子供も失った。
生きる希望を失って、ジオンも抜けて失意のままにこの街に流れついた。

そんなキャメルにとって、この酒場だけが心穏やかに過ごせる居場所だった。
余計な同情はせずに、ただ静かに飲んで話を聞いてくれる。




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