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冬のニオイ

第16章 sugar and salt

【翔side】

タツオミ君から体を借りる時、いくつか約束をした。
そのうちの一つが、なるべく睡眠時間を多くとること。

「僕の体はあまり丈夫じゃないんだ。
それに、そもそもお兄さんの魂が中に入れるようにはデザインされてない。
だから体にとっても、お兄さんにとっても、長時間続けて中に居るのは、本当はあんまり良いことじゃないの。
今回はちょっと特別のケースだから、慎重に行った方が良いと思う。
眠ると一旦体から抜けるから、その間に体も魂もメンテナンス出来るのね。
なるべく沢山睡眠をとって、メンテナンスの時間を長くした方が良いと思う。
毎日10時間以上眠って、お昼寝も必ずしてね。
僕は間もなく向こうに帰るけど、その体はまだ使うから大事にしないとね」

そう注意をされた。

タツオミ君は「向こう」に帰る、って言ってたけど、体はまだ使う、ってどういう意味だろうか。
正直全然わかんなかったけど、自分の体に戻れなくなってるのは間違いなかったし、今の俺にとって頼れる存在は彼だけだった。

俺はわからないことをそのままにしておくのは、本来はストレスに感じる方なんだけど。
実際、自分以外の姿で智くんに会えるのは有難かったから深く考えないことにした。

例えばもしもこれが事故に遭った俺が見ている長い夢だったとしても、それでもいいんだ。

夢の中でも。
智君の傍に堂々と居られるんだから。



「お兄さん、どう?
後悔してることは解決できそう?」

どこかの小さな駅の、ホームにある待合室みたいな場所で、タツオミ君が俺の隣に座ってた。
眠ると大体ここにくる。
インナースペース、ってやつなのかな。
それとも精神世界?
そっち方面は、俺は詳しくないから何とも言えないけど、毎回、この木製のベンチに並んで座って話をする。

どうやら電車を待ってる設定みたいなんだけど、いつ来ても単線のホームに電車が来るような気配はなかった。
俺達は大概、申し訳程度に設置された小屋みたいなところから、外の様子を眺めてる。

空は良く晴れて、雲が流れてて。
向い側のフェンスの向こうに見える桜並木が、風に枝を揺らしてた。
距離があるせいか蕾は全く見えない。
俺は空に散らばった白い雲を眺めながら、なんとなく質問に答える。

「うーん……どうなんだろうね……。
でもとにかく、智君には会えたよ。
ありがとう」


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