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冬のニオイ

第16章 sugar and salt

【翔side】

この体で目覚めて以降、夢の中で会うタツオミ君の姿は青年になってる。
子供の時の顔がそのまま大きくなったみたいな、可愛らしくて優しそうな雰囲気の若者だ。
背も高いし賢そうで、これは女の子にもモテるだろうな、なんて関係ないことを俺は思う。

「何度も言って悪いけど、あまり時間が無いから気をつけてね」

「うん」

と、返事はしたものの。

俺が自分の躰に戻るためには具体的に何をどうすればいいか、なんて考えたところで分かる筈もなく。
俺は俺だ、っていう意識はあるし、こうして夢の中では自分の姿で存在してはいるけどさ。
実際には今の俺って姿形はないわけでしょ。

中途半端な存在だと頭の回転も鈍くなるのか、思考がぼんやりしてまとまらないんだよなぁ……。

タツオミ君は俺の心の声が聞こえたみたいに話しを続けた。

「お兄さんの後悔、って具体的には何を指すの?
やり直したいと強く想うシーンはどこ?
多分それが鍵なんだ。
そのポイントに戻ってチャレンジするのが良いと思う」

「それは……」

智君と最後に会ったあの店でのやりとり。

俺が原因で嫌な思いをしたあの人は、きっと俺のことを思いやって真実を打ち明けなかった。
なのに俺が追い打ちをかけたんだ。

何度も何度も夢に見てきたけど、その度に俺はあの人を傷つけて置き去りにした。
やり直すなんて、夢の中でさえ出来なかったのに。

「その時のお兄さんは事情を知らなかったんだ。仕方がないよ。
でも今は違うよね?」

タツオミ君が体を斜めにして、俺のことを覗き込むようにする。

「確かに起きてしまったことは変えられない。
発車してしまった列車は次の駅までは止まらない。
だけど自分の中で、もっとこうするべきだった、ってことがあるでしょ?
〇〇すべきだった、って思う事が鍵なんだ。
修正するチャンスだと考えるんだよ。
罪悪感はね、自分で自分を裁いている状態なの。
自分自身の観念で、許されないことをした、って自分を裁いてる。
酷くなると自分を罰するために幸せになることを拒否するの。
お兄さんもあの人も、罪悪感が大き過ぎる。
人の人生って、もっと柔らかくて全方向に可能性があるものなんだよ。
上書き出来るんだ」

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