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冬のニオイ

第17章 Don't you love me

【潤side】

アームレスト越しに身を乗り出して、細い躰をぎゅっと抱きしめる。

この人は、ある種肝が据わってて動じないタイプなのに、あんなに泣いて。
誰のための涙なんだよ。

「ちょ、っと、潤」

熱にうなされて何度も呼んでた。
サクライショウって誰?
あんたの何?

「苦しいってば」

今、この人を抱きしめて守ってるのは俺だ。
この人が辛い時に、そいつは一緒に居てやることも出来ないじゃないか。

「……潤?」

「……インフルじゃなかったら、すぐにお見舞いに行くの?」

「え?」

「入院してる人のとこ」

言いながら腕に力が入る。
渡したくない。

「とりあえず一旦会社に連絡して、家に戻ってから考えるよ。
ただの風邪でもお見舞いできるかわかんないし」

「そう」

取りあえずホッとした。
腕の力を抜いて抱きしめてた躰を離す。
愛しくて、智の柔らかな頬を両手で包むようにして、親指で撫でた。

「潤?」

黙って見つめていると不安そうに俺を呼ぶ。

大丈夫だよ、俺はあなたを傷つけるようなことはしないから。
お願いだから逃げないで。

ゆっくり顔を近づけて、そっと壊れ物にするように、触れるだけのキスをする。

智は逃げなかった。
離れてからも、戸惑いを浮かべた瞳で、ただ俺のことを見てた。

「岡田、って人の連絡先、預かったままだった。
もし見舞いに行くなら、電話してからの方がいいかもね。
って、スマホ使えないんだっけ?」

「あ、うん、ロックかかってて。
……あの、潤、いろいろ世話になって、迷惑かけ」

言いかける口に、また素早くキスをした。

「いいから早く行きな?
月曜だから受付も混んでるかもよ?
はいこれ」

渡したメモを受け取って、ちょっとの間それを眺めてから、ありがとう、と優しい顔で微笑んで智は車を降りた。
発進する際に小さくクラクションを鳴らすと、振り返って俺に手を振ってくれる。

大丈夫、拒まれてはいない。

好きだとか、愛してると言えばきっと、智はまた断ってくる。
だから言わない。

離れない。

離さない。



病院を出て最初に見つけた国道沿いのコンビニに寄って、まずは会社に欠勤の連絡を入れた。
それから、スマホに登録しておいた岡田という人に電話をかけた。


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