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冬のニオイ

第17章 Don't you love me

【智side】

受付で渡された体温計を使うとほぼ平熱だった。
関節痛もなかったし、熱を出したと言っても39度までは行かなかったから、恐らく大丈夫だろうと思っていたんだけど。検査の結果、やはりインフルではなかった。

喉に腫れが残っているとかで、体力が落ちてる筈だから、むしろインフルエンザをもらわないように注意してください、と先生に言われた。
一応、今日一日は仕事を休んだ方が良いですね、って。

翔くんの見舞いの件も相談してみたけど、それはこちらでは判断が出来ないから向こうの先生にお話ししてください、って。
まぁ、そう言われるだろうな、とは思ってたんだけどさ。



点滴をされることになって、処置室が一杯だから、と案内されたのは入院患者用の部屋なのか。
辺りに人気もなく静かで。

ベッドに寝かされて点滴を受けている間、落ちてくる液体をボーッと眺めながら、さっきの潤のことを思い出してた。
指で自分の唇に触れると、ちょっと乾燥してる。
リップ、コートの中だ。

……オイラって、流されやすいんだろうか。
もうこれ以上、思わせぶりなことをしたらいけない、って思ってるのに。
さっきはオイラを見つめてくる潤が泣きそうに見えて、動けなかったんだ。

潤は優しい。

翔くんも優しかったけど、潤も本当に優しい人で。
オイラが気持ちに応えられない、って返事をしてからも、態度が今までと全然変わらない。

なんであんなに良くしてくれるんだろう。
寝るだけの相手だった、って、普通に考えたら物凄く失礼なことを言ったのに……。

寝込んでいる時に夢を沢山見たから、きっとオイラは翔くんの名前を何度も呼んだと思う。
もしも潤がオイラのことをまだ好いてくれてるなら、絶対に傷つけたはずだ。

だけど、寝込んでた間もずっと優しいままだった。
謝るオイラに、病気なんだから気にしないの、って、笑いかけてくれた。

そんな潤が、さっきは泣きそうな顔でオイラを見つめてきて。
ああ、やっぱり傷つけてたんだ、と思って。
ごめん、って思って。

かける言葉もなく黙っているうちに、唇が触れた。

いつもさりげなく触れてくる手が優しくて。
翔くんに愛されてた頃みたいで心地良かったんだ。
嬉しそうに細められるあの目を見ると、ちょっと心があったかくなるって言うか。

「オイラはずるい……」

甘えて傷つけた。

ごめん、潤。

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