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冬のニオイ

第18章 Face Down:Reborn

【智side】

マンションに戻ると、玄関前の植込みのところにタツオミが隠れるようにしゃがんでた。
オイラに気づいて立ち上がり、走り寄って来る。

「さとしくんっ」

「タツオミ」

しゃがんで待ってたら、腕をのばして来て半泣きの顔でオイラに抱きつく。
地面に膝をついて倒れないようにしておいて、ぎゅっと抱きしめた。

「どうしたの? 一人で来たのか?」

「たおれたんでしょ? だいじょうぶ?」

無理にオイラから体を反らして心配そうに言う。

「キタムラさんに聞いたの?
ごめんな、心配した?」

涙目で、うんうん、って頷いてるのが可愛らしくて、思わず頭を撫でた。

「今病院から帰って来たところ。
もう熱は下がったから大丈夫だよ」

「ほんと?」

小さな手がオイラの額に触れる。

「ふふっ、ほんと。
点滴を打ってきたから、ずいぶん楽になった」

ほら、と手の甲に貼られた絆創膏を見せて笑いかけてやったら、タツオミは子供らしくない仕草でオイラの頭を胸に抱き寄せた。
安心したように息を吐く。

「よかった……ごめんね……」



手を繋いでマンションの部屋まで案内する間。

「ほんとに入ってもいいの?
だいじょうぶ?」

何度もきくから、その度に手を握って、大丈夫だよ、って返事をした。
留守にしてたから一旦窓を全開にして、暖房もフルで入れる。

「タツオミ、空気の入れ替えするから、あったまるまで上着脱がないでね」

「うん。へや、見てもいい?」

「いいよ」

返事をして、何か温かいもの、と台所を探す。
去年、忘年会のビンゴ大会でもらった、どこかのホテルのスープセットを見つけた。

「タツオミ~。
クラムチャウダーって食べられる?」

「うんっ、オレ、貝はだいすきだよっ」

ああ。
そうだよね。
翔くんは昔から貝が好きで……。

レトルトパウチからスープカップに中身をあけて、電子レンジで加熱をセットしながらオイラは指が震えた。
賞味期限が切れそうになってるバターロールがあったから、そっちはトースターにセットして。

「嫌いなものってあるの~?」

ツマミを回しながら、わざと何でもないみたいに訊いてみた。

「パクチー」

ほら、やっぱりそうだ。

元気な声が遠くから返って来るのを聞きながら、オイラは自分のカンが間違ってない、って確信した。


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