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冬のニオイ

第18章 Face Down:Reborn

【智side】

リビングへ通じるドアまで行って、何をしてるのかと様子を見てみる。
タツオミは床にペタンと座って、本棚の一番下に入れてた画集を取り出してた。

こっそり眺めていると、床に置いた分厚い本のページをめくりながら、空いている方の手が口元に動いて。小さく握った拳が唇に触れる。

憶えてるよ。
集中しようとすると、どうしても出ちゃう癖。

オイラの視界は涙で滲んでくる。

スマホのロックを解除してから家までたどり着く間、ずっと考えてた。
タツオミは翔くんに何か関係がある。

今ハッキリわかってることと言えば、翔くんは事故に遭って入院してて、意識が戻らないってことだけだ。

オイラに会おうとして出掛けた、って聞いて、すぐに会いに行かなくちゃ、って。
翔くんが死んじゃう、ってオイラはパニックになった。

体を直さないとお見舞いにも行けない、って言われて。岡田っちに連絡してみて、お見舞いに行っても大丈夫そうなら翔くんに会いに行ってみよう、と思ってた。

だけど、あのロックを解除して思ったんだ。
寝込んでいる間どうしようもなかった分、熱が下がると冷静になったのかもしれない。

って言うか、理屈じゃなくて鳥肌が立った。



翔くんだ。



この数字は、翔くんでなきゃ知ってるはずがない。翔くんしか、知らない数字なんだ。

仮にだけど。
タツオミが翔くんと誕生日の話までしていたとして、0125→5210ってとこまで話すだろうか。

俺の誕生日は1月25日なんだよ、だから暗証番号は5210なんだ?

言わないよ、そんなこと。
不自然だ。

そう思って、タツオミに初めて会ってからのことを一個ずつ思い出してみた。

どうして今まで気がつかなかったんだろう。
翔くんに似てるなんてもんじゃない。
そのものじゃないか。

仕草、表情、オイラを見る目や、あの呼び方。
昔一緒に踊ってた振りつけがわかること。

一級建築士の合格証書を見て目を真っ赤にして、さとしくんは、すごい、って。
オイラが高卒の資格を取れた時にも、翔くんは同じセリフを何度も言ってたんだ。

根拠はないけど、この子は翔くんなんじゃないの?

そんなことは有り得ないとわかっていても、こうして見ていると翔くんに思えて仕方がない。

訊いてみないと。

タツオミ。
君は、翔くんなんじゃないの?


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