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冬のニオイ

第19章 negai

【潤side】

電話の声の印象からガタイのデカイ男を想像していたが、実際の岡田氏は俺よりも背が低かった。
けれども、明らかに何らかのスポーツか格闘技をやっていると思われる体つきをしている。
単なる自負ではなく、事実自分が強いと知っている奴に特有の、どこか大らかな空気をまとった人だった。

「すみません、お待たせいたしました。
櫻井がお休みしてるのもあってコマが増えてしまったので……。
ええと、代表の岡田と申します。
あなたのことは〇〇ホームのパーティーでお見掛けしましたよ」

俺が差し出した名刺を丁寧に受け取ってくれて、自分の名刺と交換してくれた。
いきなりやってきた見知らぬ客(しかも住宅販売会社の営業)に、この対応はかなり親切だ。

ビルのテナントで入っていた学習塾だったが、応接室の用意がないとかで面談スペースに通された。
コーヒーも出してくれてる。

「突然やってきて申し訳ありません。
お時間を頂き有難うございます」

「構いませんよ。
何ごともご縁だと思ってますから」

言って、ニッと笑う表情に余裕があった。
爽やかなのは間違いないが、食えない男、という感じもした。

一通り初対面の挨拶を済ませ、俺は彼が何故ウチのパーティーに来ていたのかを知る。
社長の息子がここに通っていたのか。
不登校だったが難関とされてる高校に合格したとの噂を思い出した。

俺の方からは智の勤める設計事務所が協力業者であることと、ひょんなことからキタムラさんと知り合い、櫻井さんの事故のことを知った件について話した。

「では松本さんは、大野とはお仕事とプライベート、両方のお付き合いがおありなんですね。
アイツ、どうですか、元気にしてますか?」

問いかけてくる言葉に親しみが滲んでいる。

「風邪で週末から寝込んでまして……今朝、病院へ連れて行きました。
恐らく今日明日にでも岡田さんに連絡が入ると思います。
あの、櫻井さんのことが相当ショックだったようで……」

言葉を濁した俺を彫の深い顔でじっと見て、ウンウン、と頷く。

続けて何か話すのかと待っていたが、岡田氏の方でも俺の言葉を待っているのか、いつまでもウンウンとやっていた。

どうやら俺から話すしかなさそうだ。
言いにくいが仕方がない。
こういうタイプの人は、結論から話さなければ、多分はぐらかされる。

気持ちを引き締めた。

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