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冬のニオイ

第19章 negai

【潤side】

「不躾ですが、単刀直入にお尋ねします。
櫻井翔さんが目を覚ます確率はどのぐらいなんでしょうか」

「と、仰いますと……」

「大野さんと櫻井さんが特別な関係だったことは知っています。
大野さん本人から、昔、一人だけ、男性と付き合っていたと教えてもらいました。
ずいぶん前に別れてしまった、ということも聞いています」

「…………」

「俺……僕は、大野さんに真剣な交際を申し込みました。
人生のパートナーになって欲しいと思っています」

岡田氏は合掌のスタイルで両手を鼻の前まで持って来ると、視線を俺に据えたままスーッと息を吸い込んで、ゆっくり吐き出した。
けれども言葉はない。

何なんだこの人、と思ったが、沈黙が気まずかったので話を続けた。

「正直なところ、僕には大野さんが今でも櫻井さんのことを以前と同じように想っているのか、それはわかりません。あの人は、あまり自分の話をしないので……。
ただ、仮に今でも気持ちが残っているのなら。
こんなことを言うと櫻井さんのご友人の岡田さんには大変申し訳ありませんが……もしも櫻井さんが目覚めなかった場合、大野さんが受けるショックは大変なものです。
熱を出して寝込む程度では済まないでしょう」

「…………」

「それに、当てもなく櫻井さんの意識が戻るのを待ち続けるのは、相当なストレスです。
恐らく並大抵のことではないだろうと思います。
僕は……大野さんを櫻井さんに会わせない方が良いのではないかと考えています。
あの人が苦しむ姿を見たくないんです」

話しているうちに感情的になって来て、冷静に聞こえるように注意しながら言葉を選んだ。

岡田氏はずっと黙ったまま、テーブルに両肘をつき、組んだ指で顎を支えていた。

「あの、聞いていらっしゃいます?」

「はい」

またダンマリなのかと強く言うと、予想に反してすんなりと返事が来る。
表情に変化がないから、彼が俺のことをどう思っているのか全く分からない。

ここまで話しても反応がないって。
この人、本当に智の昔からの友人なのか?

智と櫻井さんが恋人関係にあったことを話したのは、やばかったのかもしれない。
ここに来たのは間違いだったか、と俺は思い始めた。


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