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冬のニオイ

第20章 誰も知らない

【智side】

呼んでるのにいつまでも来ないのに焦れて、思わず昔と同じように「翔くん」って叱ってしまった。
自分で言って驚いたくらいだったのに、タツオミは自然に返事をした。

やっぱり。

やっぱり、翔くんなんだ。

そう思って、食事をしながら翔くんのことを問いかけてみたけど、今度は触れられたくないみたいに歯切れが悪い。
食べ終わると急にトロンとしてしまうから、いかにも子供らしいその姿に、もう一度「翔くん」と呼んでみた。

やっぱりタツオミは普通に返事をした。

翔くんしか言わないようなことをムニャムニャと言って眠ってしまう。



ベッドに運んでしばらく顔を見てたんだけど……オイラの鈍い頭では何がどうなっているのか、とうてい理解が出来ない。
留守をしていたし頭の中を整理したくて、タツオミが目覚めるまで掃除しながら考えた。

翔くんは子供をかばって事故に遭った。
1か月以上も意識が戻らなかったタツオミと、今でもまだ目を覚まさない翔くん。
そして、翔くんしか知らない数字。

キタムラさんや岡田は何か知っているのだろうか。
とにかく、入院している翔くんに会わなければ、と思った。



一通り片付けが終わってコーヒーを飲んでいると、ベッドルームから突然、子供の泣き声が響いた。
慌てて様子を見に行く。

「翔くんっ、どうしたのっ? 大丈夫っ?」

駆け寄ると、子供はオイラを見てビクッと体をすくませる。
怯えた顔で、ひっく、ひっくとしゃくりあげていた。

「怖い夢見た? それとも、どっか痛い?」

言いながらベッドに腰掛けて、半身を起こしているのを抱きしめた。
背中をポンポンと叩いてやる。

「……っく……っ……」

「どうしたの、大丈夫だよ。
大丈夫、大丈夫、ね?」

顔を覗き込んだら、子供は不思議そうな、あやしんでるような顔でオイラを見ている。
それから身をよじってオイラから離れると、小さな手を自分の頬に当てて、指の背で顔を擦った。

『だれ?』

「え?」

話す声が聞き取りにくい。
タツオミは知らない人を見るような目でオイラを見ていた。


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