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冬のニオイ

第20章 誰も知らない

【智side】

『ここ、どこ?』

そう言いながら、タツオミが手を動かす。
意味がありそうなその動きで気がついた。

「あ、もしかして手話?
ごめん、オイラわかんない……」

困惑しながら答えると、子供の目にみるみる涙が浮かんで顔がゆがむ。

「うっ……うう~」

「ああ、待って、大丈夫だから。
キタムラさんに電話しようね。
キタムラさん、わかる?」

頷いたからスマホを取りに行って、目の前でキタムラさんに電話をかけた。



その後、1時間もしないうちにキタムラさんが迎えに来てくれて、結局タツオミはそのまま帰ったんだけど。
オイラの頭はずっと混乱してる。

昼寝から目覚めた子供はオイラが誰だかわかってなかった。
それどころかオイラが今まで接して来たタツオミとは、声の出し方から違っていた。

翔くんを連想させるような表情や仕草も消えてて、違う子みたいだった。

怖がらせないように気を遣いながら、一緒にスマホで動画を見たりしてたんだけど。
オイラはハマダ屋敷に行った時に、キタムラさんが言っていたことを必死に思い出そうとしていた。
確か、目が覚めてからのタツオミは別人のようだ、って言ってなかったか?

『きみは さくらい しょう くん ですか?』

スマホの文字入力を使って思い切って尋ねてみると、子供からは、ちがう、という返事が返ってきた。

違う。

そうだ、違う。
オイラが今まで一緒に居た子供とは違う。

人懐こい性格なのか、キタムラさんを待っている間に大分落ち着いてきたみたいで。
帰り際には、オイラに向かって恥ずかしそうに笑顔を見せて、バイバイと手を振ってくれた。

でも、何が起こったの?
翔くん、と呼んだら返事をしたよね?

一応キタムラさんには、どういう状況だったか伝えたけど、意外にも彼は落ち着いた様子で。
むしろオイラの話を取り合わないというか……あれは何かごまかしてた?

全然わかんない。
タツオミと翔くんとの関係は自分の目で確かめるしかなさそうだ。

岡田っちに連絡しようとスマホを手に取ると、潤から体調を気遣うメールが来ていた。
世話になったんだからすぐに連絡すべきだったのに。
きっと心配させてたな、と申し訳なく思いながら、お礼と、インフルじゃなかったことをメールする。

なんだか、いろいろあって。
夜になっても、なかなか眠ることが出来なかった。

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