冬のニオイ
第21章 Tell me why
【智side】
病院へ行った翌日、インフルでもないのにいつまでもは休めないから、取りあえず出社した。
出社さえしてしまえば、社長は時間の使い方にはうるさく言わないんだ。
ウチの会社は潤のところからの下請けが殆どで、販売計画も年間を通してスケジュールが決まってるし、早い段階で発注がある。
小さな事務所だし、突発的な注文が入ってこない限りはこれまで通りのやり方で仕事に支障が出るなんてことはない。
社長もわかってるから、仕事中に外出することには寛容だった。
まず、朝一番で社長に中抜けする許可をもらってから、岡田っちに電話をした。
「大野だけど……」
昨年のパーティーではろくに挨拶もしないで逃げ出したから、オイラとしては岡田と話すのはちょっとバツが悪かったんだけど。
「おお、待ってたぞ。連絡ありがとな」
って。
全然こだわりなく言われてしまって、拍子抜けしたというか。
ありがたかった。
翔くんのお見舞いに行きたいと話すと、一緒に行ってくれることになって。
塾は子供たちが学校が終わってから来るから夕方からだと難しい、ってことで、昼間に現地での待ち合わせをする。
「バンビに会うなら覚悟した方が良いぞ」
電話を切る間際に岡田は物騒なことを言った。
「え、覚悟、って……?」
「あいつに会ってしまったら、今のお前の生活が変わるかもしれないぞ」
岡田っちは昔からこういう物言いをすることがあって、何て言うか、哲学? というか、禅問答を好むようなところがあるんだけど。
心配して言ってくれてるのはオイラにも伝わった。
「……もう翔くんには会ってるよ。確かめに行くんだ」
しばらく考えるような間があって、じゃぁ、待ってるから、と言われて電話は切れた。
一人、電車に揺られながら、オイラは自分が何をどうしたいのかなぁ、って考えた。
もしも、あのままずっとタツオミにも会わなくて、翔くんの名前も聞かなかったら、オイラはきっと翔くんにまた会おうとはしなかっただろうと思う。
一生一人でひっそりと生きていく覚悟なら、とっくに出来ていた。
……違うか。
覚悟というよりは、仕方ない、って。
受け入れるしかなかった、ってのが正しいかな……。
病院へ行った翌日、インフルでもないのにいつまでもは休めないから、取りあえず出社した。
出社さえしてしまえば、社長は時間の使い方にはうるさく言わないんだ。
ウチの会社は潤のところからの下請けが殆どで、販売計画も年間を通してスケジュールが決まってるし、早い段階で発注がある。
小さな事務所だし、突発的な注文が入ってこない限りはこれまで通りのやり方で仕事に支障が出るなんてことはない。
社長もわかってるから、仕事中に外出することには寛容だった。
まず、朝一番で社長に中抜けする許可をもらってから、岡田っちに電話をした。
「大野だけど……」
昨年のパーティーではろくに挨拶もしないで逃げ出したから、オイラとしては岡田と話すのはちょっとバツが悪かったんだけど。
「おお、待ってたぞ。連絡ありがとな」
って。
全然こだわりなく言われてしまって、拍子抜けしたというか。
ありがたかった。
翔くんのお見舞いに行きたいと話すと、一緒に行ってくれることになって。
塾は子供たちが学校が終わってから来るから夕方からだと難しい、ってことで、昼間に現地での待ち合わせをする。
「バンビに会うなら覚悟した方が良いぞ」
電話を切る間際に岡田は物騒なことを言った。
「え、覚悟、って……?」
「あいつに会ってしまったら、今のお前の生活が変わるかもしれないぞ」
岡田っちは昔からこういう物言いをすることがあって、何て言うか、哲学? というか、禅問答を好むようなところがあるんだけど。
心配して言ってくれてるのはオイラにも伝わった。
「……もう翔くんには会ってるよ。確かめに行くんだ」
しばらく考えるような間があって、じゃぁ、待ってるから、と言われて電話は切れた。
一人、電車に揺られながら、オイラは自分が何をどうしたいのかなぁ、って考えた。
もしも、あのままずっとタツオミにも会わなくて、翔くんの名前も聞かなかったら、オイラはきっと翔くんにまた会おうとはしなかっただろうと思う。
一生一人でひっそりと生きていく覚悟なら、とっくに出来ていた。
……違うか。
覚悟というよりは、仕方ない、って。
受け入れるしかなかった、ってのが正しいかな……。