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冬のニオイ

第22章 YOUR SONG

【翔side】

昨日はせっかく智君に会えたのに、部屋で眠ってしまったらしくて気がついたら何と朝になっていた。
どうやって屋敷に戻って来たのか全然憶えていない。
子供はよく眠ると言うけれど、それにしても寝過ぎだった。

朝、自然に目が覚めて枕元の時計を見た時には、午前9時を過ぎたところだった。
朝と言ってもタツオミ君の生活はゆっくり始まる。

タツオミ君はあまり丈夫な子供ではなかったということで、小学校には殆ど行っていない。
俺が彼の肉体に入ってからも、事故のこともあってか学校に行くようにとは全く言われなかった。

登校が間に合う時間に一度メイドさんが部屋を覗きに来て、声を掛けてくれた時に目を覚まさないと、そのまま寝かせることになってるらしい。

食堂でのんびり朝食をいただきながら、キタムラさんとその日の予定を確認する。

登校しない日には住み込みの家庭教師の授業があるから、その時間割だったり、習い事のスケジュールもあったし、キタムラさんから教養に関するレッスンを受ける時間もあった。

「キタムラさん、オレ、さとしくんにあいに行きたい」

「ぼっちゃん、オレではなく何と言うのでしたか?」

「まちがえた、ごめんなさい。
ぼく、さとしくんにあいたいの。
さとしくんのカイシャにでんわしてもいい?」

「大野さんはお仕事でしょう。
お邪魔するのは感心しませんね」

微笑んではいるが、断固たる口調でキタムラさんが言った。

「ぼっちゃんは昨夜、キタムラとした約束をお忘れでしょうか?
本日からバイオリンのお稽古を再開なさるご予定です」

「え?そんなやくそく、してないよ」

「……そうでしたか?」

「そうだよ。
ぼく、さとしくんちでお昼ねしちゃって、そのままあさまでねてたもん。
キタムラさんがむかえに来てくれたんだよね?」

ヨーグルトの器にトッピング用に用意されていたフルーツを放り込みながら俺は言った。

「……左様でございましたね」

「あのね、ひとりで出かけたこと、ハンセイしたよ。
こんどはおくってもらうから。
それで、ぼく、おねがいがあって。
さとしくんとまち合わせがしたいの。
れんらくしてもいいでしょう?」

「…………」

「キタムラさん?」

キタムラさんは手に持っていたスケジュール管理用のノートを見つめたまま、何か考え事をしているようで、固まっていた。

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