冬のニオイ
第26章 素晴らしき世界
【翔side】
背後でドアが音も立てずに閉まる気配を感じながら、急いで客室へ向かう。
先程まで乗っていた列車とは作りが全く違って、見たことがない素材で出来た車体だった。
だが、そんなことはどうでもいい。
俺はもう形振り構っていられず、一番先に目についた若い男性に話しかける。
「すみません、この列車はどこに向かってますか?」
「へ? オリオンですよ」
男性が、今さら何を? という風に返事をする。
「オリオンって?」
「オリオンはオリオンですよ。
あそこを故郷にする魂たちが、この列車で星へ帰るんです。
あなたもオリオンの人でしょ?
そうでなかったら、この列車にはそもそも乗れないですからね」
落ち着いた口調で答えた男性は、良かったらどうぞ、と自分の向かいの席を手で指し示した。
何を言ってるんだ?
星へ帰る?
「やっと向こうへ帰れますね」
嬉しそうに微笑む顔を見て、酷い耳鳴りを感じる。
俺が……俺が帰る場所はオリオン……?
「違う!」
思わず怒鳴るように言って、またデッキへと引き返す。
違う!
違う!!
ドアについた窓から外を見ると、ああ、何てことだ。
車体が空に浮いていた。
床下に線路の感覚がまだあるから、きっとジェットコースターみたいに昇りの傾斜がついているんだろう。
子供の頃に好きだったアニメのように、星空へ向かって伸びる線路の映像が思い浮かんだ。
駄目だ。
俺は戻るんだ。
あの声の人に、会わないと。
そう思った時、また聴こえた。
『しょぉくん……』
さっきより声が遠くなってるのに気がついて、夢中でドアの脇に設置されていた緊急時用と思しきボタンを押す。
警報がなってドアのロックが外れたらしい。
けど、列車は止まらない。
迷ったのは一瞬だった。
構うもんか。
行くぞっ。
高いところが苦手なはずの俺は、はるか下に見える街の灯りに向かって夜空の中へとダイブしていた。
背後でドアが音も立てずに閉まる気配を感じながら、急いで客室へ向かう。
先程まで乗っていた列車とは作りが全く違って、見たことがない素材で出来た車体だった。
だが、そんなことはどうでもいい。
俺はもう形振り構っていられず、一番先に目についた若い男性に話しかける。
「すみません、この列車はどこに向かってますか?」
「へ? オリオンですよ」
男性が、今さら何を? という風に返事をする。
「オリオンって?」
「オリオンはオリオンですよ。
あそこを故郷にする魂たちが、この列車で星へ帰るんです。
あなたもオリオンの人でしょ?
そうでなかったら、この列車にはそもそも乗れないですからね」
落ち着いた口調で答えた男性は、良かったらどうぞ、と自分の向かいの席を手で指し示した。
何を言ってるんだ?
星へ帰る?
「やっと向こうへ帰れますね」
嬉しそうに微笑む顔を見て、酷い耳鳴りを感じる。
俺が……俺が帰る場所はオリオン……?
「違う!」
思わず怒鳴るように言って、またデッキへと引き返す。
違う!
違う!!
ドアについた窓から外を見ると、ああ、何てことだ。
車体が空に浮いていた。
床下に線路の感覚がまだあるから、きっとジェットコースターみたいに昇りの傾斜がついているんだろう。
子供の頃に好きだったアニメのように、星空へ向かって伸びる線路の映像が思い浮かんだ。
駄目だ。
俺は戻るんだ。
あの声の人に、会わないと。
そう思った時、また聴こえた。
『しょぉくん……』
さっきより声が遠くなってるのに気がついて、夢中でドアの脇に設置されていた緊急時用と思しきボタンを押す。
警報がなってドアのロックが外れたらしい。
けど、列車は止まらない。
迷ったのは一瞬だった。
構うもんか。
行くぞっ。
高いところが苦手なはずの俺は、はるか下に見える街の灯りに向かって夜空の中へとダイブしていた。