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冬のニオイ

第27章 Asterisk

【智side】

左手で翔君の手を握ったまま、祈るような気持で右手をそっと光の方へ差し出した。
すると、その小さな光はオイラの方へゆっくりと近づいて来る。

上に向けたオイラの手の平までやって来ると、そこで止まって。

「翔くん、愛してる」

言うと、光がほんの少しだけ、大きくなったような気がした。

「愛してる、翔くん。
思い出して。
タツオミの体に入ってオイラに会いに来てくれたでしょ?
あのお店で、また会ったでしょ?」

頷くみたいに、上下にふわんふわんと揺れた。

「ふふっ、思い出した……?」

光源が全くないのに、七色のスペクトルみたいに輝き始めた。
かーちゃんが持ってるダイヤの指輪みたいだ。
物質の王、ダイヤモンド。
翔くんの心みたいに美しくて強い、金剛石。
どうか翔くんの魂を、彼の体まで導いて。

「翔くん、憶えてる?
オイラのこと許してくれる、って言ったよね?
オイラも……オイラも翔くんのこと許すって、言ったでしょ?
忘れちゃった?」

見間違いじゃなく、その光は次第に大きさを増して。
星が瞬くみたいに輝きながら、音もなく静かにオイラの手の平の上に乗った。

「ふっ、可愛い……」

思わず顔が笑ってしまう。

翔くん、大好きだよ。
誰よりも、君だけを愛してる。

「オイラ達、止まってた時間を進めよう。
二人で、やり直そう?
翔くんの誕生日だから、もう一回、もういっかい」

声が震えて、言葉にならない。

頭の片隅で、こんな、おかしい人みたいに一人で喋って、俺何してるんだろう、って思うけど。
気持が溢れて止まらない。

「もう一回生まれてきて、翔くん!
オイラを一人にしないで!!」

子供みたいにぐちゃぐちゃに泣きながら、幻かもしれない光がにじむのを見てた。

もう、どうしたらいいのかわからない。

「ふっ……うっ、う~……」

堪え切れずに声を漏らした時、手の平の上に居た光がスッと動いて、オイラの目の高さまで上昇した。





『智君、泣かないで……』





翔くんの声をオイラは確かに聴いたと思う。

涙でにじんで既に良く見えなくなってる視界の中で、輝く光がオイラの額に触れた気がした。

翔くんがキスしてくれたみたい。

そう思ったのは記憶にあるけど。
それから先のことは憶えていない。


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