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冬のニオイ

第3章 サヨナラのあとで

【翔side】

「来てやったぜ?」

抜かりなくパーティーの出席者に営業をしていたらしいぶっさんは、帰りがけのタクシーの中で俺の電話を受けたそうで。
どうせ近所に住んでるんだし、って、そのまま俺の部屋まで足を伸ばして来てくれた。

玄関ドアを開けた時から既に、ニヤニヤ笑いを顔いっぱいに浮かべてる。

「酔ってるでしょ」

「酔ってないよ。
真面目に営業してたんだぞ」

目が大きくて視線が鋭いから、優しい顔で微笑まれてもいろいろ見抜かれてる気がしてバツが悪い。
誤魔化すつもりでわざと言ったら、笑いを浮かべたままの顔でジッと見つめられた。

この人が酒が強いことくらい良く知ってる。
智君と付き合ってた頃からだから、もう随分長い付き合いだ。
俺が昔から泣いた後に顔を腫らすことだって、とっくにお見通しだろう。

年甲斐もなく取り乱してる自分が一つ年上のこの人にはどう見えるのか、想像すると恥ずかしくて思わず下を向いた。
ぶっさんが、フッ、と息だけで笑う気配がする。

「バンビ~! コノヤロウ、何て顔してんだ!
お前は本当に可愛いなぁ!!」

「うわっ、ちょっ」

ガシッと頭を抱きしめられる。

本人は親愛の表現としてやってるらしいけど、酒で力の加減が出来ないのか、やたらと締め付けがきつくて羽交い絞め状態だ。
プロレス技をかけられてるのと大差ない。

「苦しいって! ギブ! ギブ!!」

首の下に巻き付いてる二の腕をバンバンと叩いてやったら、肉の厚い手が俺の頭をガシガシと撫でた。

「やーめろってぇ」

「……話、って、大野智のことだろ?」

腕の力が緩んだ。

「俺にも一生隠すつもりだったのか?
とっくに知ってんだよ、ばか。
お前ら付き合ってたんだろ?」

「……うん」

「いつ泣きついてくるかって期待してたのに、あれから何年だよ?
お前も意地っ張りだなぁ。
大野といい勝負だよ」

ヨシヨシ、と言いながら、また俺の頭をガシガシと撫でる。

「ま、明日は俺もお前も休みなんだし、酒も買って来た。
じっくり聞かせてもらおうか」

ぶっさんは俺の髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜてから、外国人みたいに彫の深い顔でニヤッと笑った。


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