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冬のニオイ

第29章 LIFE

【智side】

ちょっとはオイラも、人間的に成長したってことなのかな?

わかんないけど、今の自分なら、あの頃よりももっと大きな気持ちで翔くんと寄り添えるように思う。
ま、アラフォーだしね。
今は翔くんの退院を素直にお祝いしよう。

「ふふっ」

それにしても今日はあったかい。
日差しが染みて目がしぱしぱする。

「あ……」

窓の外に目をやると、道路の向こう側で信号を待っている翔くんが見えた。
ちゃんとお揃いのコートを着てる(笑)。
オイラに気がついて、遠目にも一瞬で顔が優しくなったのがわかった。
歩行者用の信号が青になった途端、小走りにこっちに向かって来る。

オイラは思わず立ち上がって、窓の外の翔くんに手を上げて見せた。
ニコニコ、って表現がぴったりの顔をしてる翔くんに、店の入り口じゃなくてこっちに来て、って手招きをする。
ちゃんと意味をくみ取ってくれて、店に入らずにオイラがいる席の窓の外に立ってくれた。

「ふふっ、大丈夫?」

声に出して言うと、翔くんの口がダイジョウブって動く。
オイラは、昨日キタムラさんに教えてもらった、覚えたばかりの手話をして見せる。

自分を指さしてから、翔くんを指さして。
左手の甲を右手で丸く撫でた。

『私は 貴方を 愛しています』

翔くんの目が真ん丸になって、それから笑顔の見本みたいに、ぱあっ、って笑った。
オイラがしたのと同じ動きをしてくれる。

「……オイラも」

愛してる。

声に出さずに口だけ動かして伝えると、翔くんは一瞬呆けたような顔をしてから、店のドアに向かって走り出した。

二人の季節が、巡っていく。















※書いてる人より

ここまで読んでくださって心より感謝いたします。
有難うございます。
初出ではここで物語が終わりだったのですが、リメイクに当たりこの後書下ろしでもう1章加えます。
良かったらあとちょっと、お付き合いくださると嬉しいです。
あ、でもこれから書くので……お時間をもらうかもです。
すみませんですm(__)m




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