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冬のニオイ

第29章 LIFE

【智side】

翌日はすっかり春めいて、気温が急に上がった。
ガラス越しの日差しが明るくてポカポカしてるから、真冬のコートではもう汗ばむような季節になったんだと実感する。

翔くん、大丈夫かな。

待ち合わせの時間よりかなり早く店について、窓の外を眺めながら、オイラは翔くんとのこれまでのことを想ってた。

10年前に恋していた時も、こうしてよく待ち合わせして。
最後に会ったのも、この店。
小さなタツオミが翔くんだってわかって、ようやく会えたのもこの店。
そんで今、すっかり大人になった30代の翔くんを、またここで待ってる。

月日が経つ、って不思議だなぁ、と思う。

翔くんに恋をして夢中になって、毎日、一緒に居られるだけでキラキラしてた頃。
楽しくて幸せだったのに、今にして思うと、いつもどこか不安があった。

不安、っていうか、どっちかって言うと、やましさ。

どんなに好きでイチャイチャして盛り上がってても、してはいけないことをしているという罪悪感がいつも根底にあったような気がする。
怖くて見ない振りをしてたことが沢山あった。

学歴もなく、時給のバイトで将来が見えない自分のこと。
家族ともうまく行ってなくて、頼れる人も無くて。
翔くんがどんなにオイラに優しくても、どっかで味方は一人もいない、って思ってた。

自分は駄目なんだ、っていう自信の無さとか。
翔くんとは釣り合わない、という気持ち。
そもそも男同士で、誰にも祝福されない関係って思い込んでたこと。

そういう過去の感情が蘇ってくるけど、今のオイラはそこから距離を置いて、客観的に見れてるのが自分でも不思議だった。

翔くんと離れていた10年、孤独で辛かったし、苦しかったのは間違いないけど。

モヤモヤしてた色々を自分で考えて、決断して。
自分で行動した結果、今のオイラがある。

俺、凄いだろ、的なものは今だってないけど、卑屈な気持ちも、もうない。
地味に積み重ねてきた時間が、自信、までは行かないけど、ちゃんと自分を支えてくれてるのを感じるんだ。



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