冬のニオイ
第30章 Baby blue
【潤side】
「春だなぁ……」
花曇りとはよく言ったもので、別の見方をすればいつ雨が降り出しても不思議はない天気だ。
眼下に眺める街並みには咲き始めた桜が所々に見えている。
東京と青森と、今年は花見も2回出来そうだ。
送別会と花見が兼で、恐らく歓迎会と花見が兼なんだろう。
有難いことではあるけれど、気を遣うのは間違いない。
俺は今夜の送別会を想像して、ちょっとげんなりする。
異動するのは俺だけじゃないから、何とか隙を見て抜け出したいけど……無理だろうなぁ。
諦めが肝心だ。
今日は本社への最終出勤日。
既に各所への挨拶も終わって、むしろ夕方まで時間を持て余してるくらいなんだけど。
何にも無くなったデスクに座っていても手持無沙汰で仕方がないし。
年度末の業務に追われている他の社員に申し訳なくなってきて、俺は一人屋上に来ていた。
4月1日付の異動を前に溜まっていた有給休暇を使わせてもらって、サッサと部屋は引き払ってしまった。
昨日からホテルで寝てる。
転勤先に学生時代の後輩が居て荷物の受取をしてくれたから、明日は身一つで移動だ。
着いたら即、段ボールを開けないとならないけど、あっちでの初出社にはまだ数日余裕がある。
のんびりやるさ。
「……智はどうしてるかな」
誰も居ないのを良いことに、二度と会えない人の名を口に出す。
この間社長と話した時に、櫻井さんが目を覚まして先月退院したと聞いた。
きっと二人寄り添って過ごしてるんだろう。
そうであれば良いと思う。
俺は最初、正直、聞き間違いかと思ったくらいで。
嬉しそうに教えてくれた社長の前で、顔色を変えないようにするのは大変だった。
勿論、おめでたいことには違いない。
俺だって良かったと思った。
そもそも子供をかばって事故に遭ったんだし、そういう善い人が報われないのはおかしいもんな。
智にとっても良かったに決まってる。
なんだけど……。
やっぱり素直におめでとうとは言えない俺が居て。
自分の心の狭さに、結構、大分、落ち込んだ。
なんか、俺、智が一人で何年も待つイメージばかりしてたからさ。
一人で先走って、的外れな心配をして。
馬鹿みたいだよなぁ……なんて。
思って、さ。
「ああああ! 心が狭い!!」
腕を乗せていた手すりを掴んで体を思い切り後ろに反らすと、泣き出しそうな空が俺を見てた。
「春だなぁ……」
花曇りとはよく言ったもので、別の見方をすればいつ雨が降り出しても不思議はない天気だ。
眼下に眺める街並みには咲き始めた桜が所々に見えている。
東京と青森と、今年は花見も2回出来そうだ。
送別会と花見が兼で、恐らく歓迎会と花見が兼なんだろう。
有難いことではあるけれど、気を遣うのは間違いない。
俺は今夜の送別会を想像して、ちょっとげんなりする。
異動するのは俺だけじゃないから、何とか隙を見て抜け出したいけど……無理だろうなぁ。
諦めが肝心だ。
今日は本社への最終出勤日。
既に各所への挨拶も終わって、むしろ夕方まで時間を持て余してるくらいなんだけど。
何にも無くなったデスクに座っていても手持無沙汰で仕方がないし。
年度末の業務に追われている他の社員に申し訳なくなってきて、俺は一人屋上に来ていた。
4月1日付の異動を前に溜まっていた有給休暇を使わせてもらって、サッサと部屋は引き払ってしまった。
昨日からホテルで寝てる。
転勤先に学生時代の後輩が居て荷物の受取をしてくれたから、明日は身一つで移動だ。
着いたら即、段ボールを開けないとならないけど、あっちでの初出社にはまだ数日余裕がある。
のんびりやるさ。
「……智はどうしてるかな」
誰も居ないのを良いことに、二度と会えない人の名を口に出す。
この間社長と話した時に、櫻井さんが目を覚まして先月退院したと聞いた。
きっと二人寄り添って過ごしてるんだろう。
そうであれば良いと思う。
俺は最初、正直、聞き間違いかと思ったくらいで。
嬉しそうに教えてくれた社長の前で、顔色を変えないようにするのは大変だった。
勿論、おめでたいことには違いない。
俺だって良かったと思った。
そもそも子供をかばって事故に遭ったんだし、そういう善い人が報われないのはおかしいもんな。
智にとっても良かったに決まってる。
なんだけど……。
やっぱり素直におめでとうとは言えない俺が居て。
自分の心の狭さに、結構、大分、落ち込んだ。
なんか、俺、智が一人で何年も待つイメージばかりしてたからさ。
一人で先走って、的外れな心配をして。
馬鹿みたいだよなぁ……なんて。
思って、さ。
「ああああ! 心が狭い!!」
腕を乗せていた手すりを掴んで体を思い切り後ろに反らすと、泣き出しそうな空が俺を見てた。