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冬のニオイ

第3章 サヨナラのあとで

【翔side】

「あん時は迷惑かけて……ごめん」

ぶっさんは黙ったまま、また俺の頭をガシガシと撫でた。

「俺……俺さ、あの人のこと信じられなくて……」

やばい。
声が引っくり返りそうだ。

「あれは全部」

「最初からお前に見せる為に計画された事だったんだろ?」

震える声を隠して頷くのが精一杯だった。



智君に最後に会った時、しばらく会いたくない、と俺は言ったけど、別れるつもりなんてなかったんだ。
いくら俺がヤキモチ焼きだったとしても、例の写真を見て、即、智君が俺を裏切ったと信じ込んだわけじゃない。
そこまで馬鹿じゃないつもりだ。

ただ。
こんなの作り物だ、って歯牙にもかけないで居られるほどの胆力は、あの当時の俺にはなかった。



あの写真をそのまま信じたりはしなかったけど、じゃぁ、これは一体何なんだ? って。
自分の恋人が他の奴とホテルにいる写真を見て、そのことについて前もって何も聞かされていなかったんだ。
当然、何があったのかを知る権利が自分にはあると思った。

何と言って切り出そうか、としばらく考えて。
何とか智君の方から言ってくれないか、って、様子を見ながら待ってたんだけど。
デートをしていても、電話やメールのやり取りをしていても、智君からこの件に関する話が出ることはなかった。

智君は俺の大学でそんなことが起きてるなんて、勿論知らなかっただろう。
俺に知られずに済むなら、その方が良いと考えたのかもしれない。

俺に対する智君の愛情は、全く変わってなかった。
接し方も話し方も、抱き合った時の躰の反応も。

変わっていったのは俺の方だ。
もしかして本当は何かがあったのでは、という考えが消えずに大きくなって。
智君と一緒にいる時に、ふとした拍子に言葉に棘が混ざるようになっていった。



「翔君、最近何だかイライラしてるね……。
大学で、何かあった……?」

最後に抱き合った晩、いつもよりも乱暴に交わった後で不安そうに俺を見上げたあの人の顔。

「別に……智君こそ、何かあったんじゃないの」

「えっ?」

「何か俺に言いたいことがあるんじゃない?」

行為の名残で潤んだままの瞳が、怯えの色を滲ませた。

「え、なん、なんで?」

「俺じゃ物足りないんじゃない?」

止まらなくなった、含みのある言葉。
あの日はあの人の、誕生日だったのに。


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