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冬のニオイ

第7章 Cry for you

【智side】

事故現場を通り過ぎ、到着したホテルのフロントで。
オイラは保険証と預けた時の番号札を出して、昨夜のパーティーのことを話してみた。
でも、コートは出て来なかった。

一度奥に引っ込んで確認したフロントマンが言うには、番号札を失くしたという申告があって、この番号のコートは引き渡し済みだって。

確かに昨夜ホテルを出た時オイラは結構動揺してたけど、まだ酔っ払ってなかったんだ。
クローク係と話をしていれば憶えてるよな?

正直、おかしいなと思って。

「そうですか……」

腑に落ちない感じでその場に立ってたら、トイレに行っていた潤が戻って来た。

「大野さん、お待たせ。
コートあった?」

「あ、うん。なんか、無いみたい……」

その俺達のやり取りを聞いていたフロントマンが、遠慮がちに声をかけてきて。

「あの、大野様、と仰いましたか?」

「はい」

オイラは手に持っていた保険証をもう一度カウンターに置いた。

「大野様……。
番号札は〇〇番でいらっしゃいますよね……。
この度はご不便をおかけ致しまして大変申し訳ございません。
私共でも改めて出来る限りお探し致します。
見つかりましたらご連絡いたしますので、お電話番号を教えていただけますか?」

潤が来たせいか急に慇懃になって言うから、一応名刺を置いてきたけど。
無い、というものは無いんだろう。
出て来なくてもしょうがないかな、と思った。
自分の不注意だ。
仕方ない。

「大事なコートだったんじゃないの?」

「え?」

「昨日、失くしたって何回も言ってたし、気にしてたみたいだったよ?」

「うん……ちょっとね、頂き物だったから」

あれは翔くんからのプレゼントだった。
処分することも出来ずに、毎年冬になると何となく着て。

買ってもらった時は凄く嬉しくて、袖を通すのが楽しみだったけど。
その後は冬が来るたびに、会えない翔くんを想って着ることになった。

背中から抱きしめられてるような気がして、辛い時とか、ばかみたいに、お守りみたいに思ってたこともある。

オイラを信じてくれなかった翔くんのことを思い出して、着るのが嫌だった時期も。

そのうち時間が経って苦しい気持ちも起こらなくなり、自分の躰にフィットする着心地が当たり前になって毎年着続けてた。

オイラと翔くんを繋ぐものは、もうあれだけだった。


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