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冬のニオイ

第8章 Come back to me

【潤side】

結局、大野さん酔っ払い事件の後は、俺たちはそういうことはしてなくて。
あの後すぐに付き合って欲しい、って申し込んだけど、それも保留状態だった。

多分この人、元々はガードが固い人なんだと思う。
いい加減に始めちゃうと続かないから、ちゃんと考えさせて欲しい、それまではソッチは無しで、って言われて。俺はあれからずっと、やせ我慢をしてる。
結構キツイ時もあるけど、はっきり断られるくらいなら待っている方がはるかにマシだった。

それでも既成事実があることには変わりがないから、まるっきりの他人に比べたら、触れられるのに抵抗が少ないのかな。

唇へのキスは許してもらえないけど、どさくさに紛れて触れたり、頬に口づけても、拒まれることはなかった。

「智、好きだよ」

腕に力を入れてぎゅっとしてから、耳元で言ってみる。
大野さんは一瞬体を固くしたけど、それだけだった。

「お腹空いた……」

ふふっ。
独特の誤魔化し方だなぁ(笑)。

「ごめん、行きましょう」

名残惜しく腕をほどいて顔を覗き込むと、つまんなそうにも見える表情で、ほんのりと赤面してた。
これが、この人の照れてる時の表情だって、俺はもう知ってる。

背中に手を当ててエスコートしながら、二人並んで事務所をあとにした。



「ね、その後ホテルからは連絡あったの?」

「んー、ない」

「そっか」

すぐ隣に行くだけだから、と俺があげたコートを腕に掛けたまま大野さんが歩き出そうとするから、取り上げて肩から羽織らせた。

「あれ、絶対なんかの手違いじゃないかなぁ」

「さぁ……どうなんだろうね」

パーティーの翌日にホテルまでコートを取りに行った時、フロント係の様子は明らかにおかしかった。

まぁ、俺としては自分がプレゼントしたコートを着てもらえてるから、出て来ない方がいいけどさ。

「大切にしてたんじゃないの?」

「ん~……仕方ないよ。
オイラ、今日は飲むの止めようかな」

「えっ、なんで?」

「また酒で失敗したくないもん」

「はっ? 失敗って俺とのこと? ひでぇ」

大げさに言ってやったら、んふふ、と笑ってる。
可愛い顔しちゃって、なんだよもう。

失敗上等!
俺はチャンスは逃さないからね?


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