冬のニオイ
第9章 Are You Happy?
【智side】
キタムラさんの後について店の外に出る。
歩きながら肩に担がれたタツオミ君? がオイラに向かって手を伸ばしてきた。
一生懸命なのがいじらしくて、オイラもそっと手を伸ばす。
小さな手と指が絡むと、タツオミ君の目からまた涙が零れた。
この子はどうしてこんなに泣いてるんだろう?
「タツオミ様、降ろしますよ。
まずはお顔をお拭きください。
そのように乱れたお姿で大野さんとお話をしてはいけません」
子供はキタムラさんが言うのに素直に頷いて、オイラの手をぎゅっと握ってから離す。
運転手らしき人からタオルを受け取ったキタムラさんに顔を拭いてもらって。
ひっく、ひっくとしゃくりあげながらオイラを見つめた。
泣くのを我慢しているのか頬の内側で舌が動いてて、ほっぺたが不自然に盛り上がってる。
オイラはそれを懐かしい気持ちで眺めた。
翔くんが昔、よくやってた仕草だ。
恥ずかしい時、誤魔化そうとする時、隠し事をしたり、感情を見せまいと気持ちが戦ってる時。よくこうして口の中で舌を動かしてた。
「僕に何か用があるの?」
座って視線を合わせると、タツオミ君はせっかく顔を拭いたのに、みるみる間に目に涙を浮かべる。
黙ったままオイラに向かって腕を伸ばしてきた。
相手は子供だし、そのまま動かないでいると頬を触られる。
「さとしくん……」
「ん?」
「げんきだった?」
「?……うん」
手の平で触れてたのが一瞬離れて、今度は指の背でそっと。
撫でるように動く。
子供とも思えないその仕草にオイラはちょっと驚いて、タツオミ君の手を両手で握った。
「なにも、こまってない?」
「困ってないよ」
笑いかけながら言うと、タツオミ君はオイラの隣に守るように立ってる潤を見上げた。
「この人は、さとしくんのコイビト?
ちゃんと、だいじにしてくれてる?」
「……え?」
「しあわせ?」
唐突な質問で答えられない。
頭上から潤の声がした。
「恋人かって?
今はまだ違うけど、俺はそうなりたいと思ってるよ。
智のことは俺が守るから、君みたいな小さな子供に心配してもらわなくても問題ない。
キタムラさん、この茶番は何ですか?」
「潤」
声が尖ってる。
「だって、失礼でしょう。
説明してもらわないと」
「……申し訳、ございません」
キタムラさんが歯切れ悪く言った。
キタムラさんの後について店の外に出る。
歩きながら肩に担がれたタツオミ君? がオイラに向かって手を伸ばしてきた。
一生懸命なのがいじらしくて、オイラもそっと手を伸ばす。
小さな手と指が絡むと、タツオミ君の目からまた涙が零れた。
この子はどうしてこんなに泣いてるんだろう?
「タツオミ様、降ろしますよ。
まずはお顔をお拭きください。
そのように乱れたお姿で大野さんとお話をしてはいけません」
子供はキタムラさんが言うのに素直に頷いて、オイラの手をぎゅっと握ってから離す。
運転手らしき人からタオルを受け取ったキタムラさんに顔を拭いてもらって。
ひっく、ひっくとしゃくりあげながらオイラを見つめた。
泣くのを我慢しているのか頬の内側で舌が動いてて、ほっぺたが不自然に盛り上がってる。
オイラはそれを懐かしい気持ちで眺めた。
翔くんが昔、よくやってた仕草だ。
恥ずかしい時、誤魔化そうとする時、隠し事をしたり、感情を見せまいと気持ちが戦ってる時。よくこうして口の中で舌を動かしてた。
「僕に何か用があるの?」
座って視線を合わせると、タツオミ君はせっかく顔を拭いたのに、みるみる間に目に涙を浮かべる。
黙ったままオイラに向かって腕を伸ばしてきた。
相手は子供だし、そのまま動かないでいると頬を触られる。
「さとしくん……」
「ん?」
「げんきだった?」
「?……うん」
手の平で触れてたのが一瞬離れて、今度は指の背でそっと。
撫でるように動く。
子供とも思えないその仕草にオイラはちょっと驚いて、タツオミ君の手を両手で握った。
「なにも、こまってない?」
「困ってないよ」
笑いかけながら言うと、タツオミ君はオイラの隣に守るように立ってる潤を見上げた。
「この人は、さとしくんのコイビト?
ちゃんと、だいじにしてくれてる?」
「……え?」
「しあわせ?」
唐突な質問で答えられない。
頭上から潤の声がした。
「恋人かって?
今はまだ違うけど、俺はそうなりたいと思ってるよ。
智のことは俺が守るから、君みたいな小さな子供に心配してもらわなくても問題ない。
キタムラさん、この茶番は何ですか?」
「潤」
声が尖ってる。
「だって、失礼でしょう。
説明してもらわないと」
「……申し訳、ございません」
キタムラさんが歯切れ悪く言った。