冬のニオイ
第9章 Are You Happy?
【智side】
大将も女将さんも、店中のスタッフと客も注目してる。
「さとしくんっ!!」
くせ毛なのか、ウェーブしてる髪が肩にかかるほどの長さで、小学校1年生ぐらいだろうか。
ほっぺたが赤くて、唇も赤くて、泣き叫びながら。
上半身を起こして必死にオイラに手を伸ばしてた。
「あのっ、待ってください。
その子、もしかして僕に用があるんじゃ」
ぽろぽろと零れ落ちる涙が可哀そうで、思わずオイラ、呼び止めてしまったんだ。
そしたら大股でノシノシと歩き去ろうとしていた男が足を止めた。
子供がオイラを見て、店の中を見回してから、また叫ぶ。
「たすけて、ぼくさらわれちゃう!
ギャクタイされてるのっ。
ケーサツをよんでくださいっ」
途端に動揺する男の背中。
一気にざわつく店内。
「タツオミ様、何という事を仰るのです。
このキタムラを誘拐犯にするおつもりですかっ」
「たすけてっ!
さとしくんっ、たすけてぇ!
うわーん!!」
子供が盛大に泣き始めると、ガタイの良い男は後姿でもハッキリわかるほど大きな溜息を吐いた。
振り返ってオイラを見る。
潤も濃いけど、この人も相当濃い顔だ。
オイラを庇ってるのか前に立っていた潤が腕を広げて、動かないように、って仕草をした。
角度的に見えないけど、多分、濃い顔同士でにらみ合ってるんだろう。
子供を抱えた男は焦った風もなくしばらく潤を見つめて、それからオイラに話しかけてきた。
「失礼ですが、大野智さんでいらっしゃいますか?」
「……はい」
「私はキタムラと申します。
この方は」
そう言って自分の肩に担いだ子供の方へ顔を傾けた。
「私がお仕えしている方のご子息様です。
誘拐でも虐待でもありませんので、ご安心ください。
不躾は承知の上でございますが、大野さん、少しお時間を頂けないでしょうか?
ここでは他のお客様のご迷惑になりますので……」
言われてることが理解できなくて戸惑っていると、チラリと潤を見てから付け加えた。
「勿論、そちらのお連れの方もご一緒で結構でございます。
どうかお願いいたします」
潤がオイラを見て、目で問いかけてくる。
小さく頷いてから、オイラはキタムラさんに、いいですよ、と返事をした。
大将も女将さんも、店中のスタッフと客も注目してる。
「さとしくんっ!!」
くせ毛なのか、ウェーブしてる髪が肩にかかるほどの長さで、小学校1年生ぐらいだろうか。
ほっぺたが赤くて、唇も赤くて、泣き叫びながら。
上半身を起こして必死にオイラに手を伸ばしてた。
「あのっ、待ってください。
その子、もしかして僕に用があるんじゃ」
ぽろぽろと零れ落ちる涙が可哀そうで、思わずオイラ、呼び止めてしまったんだ。
そしたら大股でノシノシと歩き去ろうとしていた男が足を止めた。
子供がオイラを見て、店の中を見回してから、また叫ぶ。
「たすけて、ぼくさらわれちゃう!
ギャクタイされてるのっ。
ケーサツをよんでくださいっ」
途端に動揺する男の背中。
一気にざわつく店内。
「タツオミ様、何という事を仰るのです。
このキタムラを誘拐犯にするおつもりですかっ」
「たすけてっ!
さとしくんっ、たすけてぇ!
うわーん!!」
子供が盛大に泣き始めると、ガタイの良い男は後姿でもハッキリわかるほど大きな溜息を吐いた。
振り返ってオイラを見る。
潤も濃いけど、この人も相当濃い顔だ。
オイラを庇ってるのか前に立っていた潤が腕を広げて、動かないように、って仕草をした。
角度的に見えないけど、多分、濃い顔同士でにらみ合ってるんだろう。
子供を抱えた男は焦った風もなくしばらく潤を見つめて、それからオイラに話しかけてきた。
「失礼ですが、大野智さんでいらっしゃいますか?」
「……はい」
「私はキタムラと申します。
この方は」
そう言って自分の肩に担いだ子供の方へ顔を傾けた。
「私がお仕えしている方のご子息様です。
誘拐でも虐待でもありませんので、ご安心ください。
不躾は承知の上でございますが、大野さん、少しお時間を頂けないでしょうか?
ここでは他のお客様のご迷惑になりますので……」
言われてることが理解できなくて戸惑っていると、チラリと潤を見てから付け加えた。
「勿論、そちらのお連れの方もご一緒で結構でございます。
どうかお願いいたします」
潤がオイラを見て、目で問いかけてくる。
小さく頷いてから、オイラはキタムラさんに、いいですよ、と返事をした。