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冬のニオイ

第10章 Tears

【智side】

潤を可愛いなとは思うけど、それはオイラが知ってる恋とは違う。

オイラが知ってる恋は、もっとずっと強烈で。
生活の殆どがその人のことでいっぱいだった。
何をしてても、いつも心のどこかにその人がいた。

もともとノーマルだったのに、一線を越えてしまう程、どうしようもなく好きで。
想うだけで涙が出るような。
この人を失ったら、と思うだけで息が止まりそうになるくらいの……。

だけど、もう終わってる。
翔くんの代わりは、誰もいない。



潤とプライベートで会うようになってから解ったことは、もうオイラは誰も好きになれないんだな、ってこと。

その事実は逆にオイラに、もう誰のことも好きにならなくていいんだ、とも思わせてくれた。
もう、誰のことも好きにならなくていい。
どうせ無駄だから。

それは恋愛から解放されたような、どこかホッとする安心感だった。

頭の中でどう思っても、気持ちが動かないんだから、しょうがないよ。

一人が淋しいと思う時もあるけど、仕方ないじゃないか。
たった一人の、唯一の人と思ってた相手は、本当はそうじゃなかった、ってことだ。
もう涙が出る程の執着もないし、オイラは一人でいいんだ。



コンビニに着いた時、潤が酔い覚ましにコーヒーを飲みたいって言って、オイラもそれに付き合うことにした。

人目がある場所で出来る話でもないから、逆に丁度良いのかもしれない。
店の駐車場の奥まったところで、二人、ガードレールに寄り掛かるようにしてコーヒーを啜った。

安い値段でセルフで淹れたコーヒーは、カフェオレにしてみたけど猫舌のオイラには熱い。
カップを持ってる指までが熱くて痺れるようで、なかなか口をつけられず手の中で持ち替えてばかりいた。

「智、さっきの人から連絡が来たら、俺にも教えて。
あの人に会う時は俺も一緒に行くから」

「うん……でも、オイラに用があるみたいだったし、一人でも大丈夫だよ」

「あなた一人じゃ心配だから俺も同席する」

「……松本君」

「……何?」

「付き合う、って話だけど……。
ごめん、気持ちには応えられない」

潤は大きな目でオイラを静かに見たまま、黙ってコーヒーを飲み干すと一つ溜息を吐いた。

暗闇に浮かんだ白い息の大きさが、彼の失望を目に見える形にしてオイラに伝えていた。


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