冬のニオイ
第10章 Tears
【潤side】
どこかで予想していた返事だった。
あの晩、いくら酔っていたとは言え、この人がもしも俺のことを本当に受け入れてちょっとでも好きになってくれていたなら。
全部忘れる筈が無いんだ。
だから、記憶が無いってのは、つまりそういうことだ。
この人は別に俺のことを好きなわけじゃない。
ただ誠実に考えようとしてくれてただけ。
そんなの、わかってたよ。
知れば知るほど、この人は淋し気で。
凄く優しいけど、それはこの人が元々そういう性格だからでさ。
多分、自分のことはどうでもいいと思ってるんだ。
何がどうなっても大した問題じゃない、って。
きっといろんなことを諦めて、自分の心がもう二度と動くことが無いように死んだふりをして生きてるんじゃないのかな。
だから笑って欲しかった。
楽しいことがあるんだって思い出して欲しかった。
一体何が、あなたをそんな風にしたんだろうね。
「どうして、って、訊いてもいい?」
責めてるわけじゃないんだよ、って伝わるように祈りながら、俺は精一杯無理をして、優しく聞こえるように静かに言った。
「……そうだよね、ちゃんと理由を言わないとね」
智は手の中のコーヒーを見つめたまま一つ息を吸って。
それから、きちんと俺のことを見て、とつとつと、自分の気持ちを言葉にした。
「松本君が駄目なんじゃないんだ。オイラが駄目なの。
人を好きになる気持ち、忘れちゃったんだと思う。
ん、と……違うな……。
多分、もう誰も好きになりたくない」
「…………」
「ふっ……わかんないよね、ごめん。
うまく言えないけど……。
相手が誰であっても、オイラはもう、そういう気持ちにはなれないんだと思う」
一生懸命、俺を見て言ってから、すまなそうに視線を下げる。
結んだ唇が微かに震えてることに気がついて、追い詰めたらいけないと思った。
恐らく俺は今、この人に言いたくないことを言わせようとしてる。
でも、聞きたい。
あなたのことを、もっと知りたい。
凄く辛い想いを抱えてるのかもしれないけど、誰かと一緒に居ることで癒されることだってあるでしょ?
俺、あなたが本当に好きなんだよ。
何か吐き出せることがあるなら言って欲しいと思って、こちらから水を向けた。
どこかで予想していた返事だった。
あの晩、いくら酔っていたとは言え、この人がもしも俺のことを本当に受け入れてちょっとでも好きになってくれていたなら。
全部忘れる筈が無いんだ。
だから、記憶が無いってのは、つまりそういうことだ。
この人は別に俺のことを好きなわけじゃない。
ただ誠実に考えようとしてくれてただけ。
そんなの、わかってたよ。
知れば知るほど、この人は淋し気で。
凄く優しいけど、それはこの人が元々そういう性格だからでさ。
多分、自分のことはどうでもいいと思ってるんだ。
何がどうなっても大した問題じゃない、って。
きっといろんなことを諦めて、自分の心がもう二度と動くことが無いように死んだふりをして生きてるんじゃないのかな。
だから笑って欲しかった。
楽しいことがあるんだって思い出して欲しかった。
一体何が、あなたをそんな風にしたんだろうね。
「どうして、って、訊いてもいい?」
責めてるわけじゃないんだよ、って伝わるように祈りながら、俺は精一杯無理をして、優しく聞こえるように静かに言った。
「……そうだよね、ちゃんと理由を言わないとね」
智は手の中のコーヒーを見つめたまま一つ息を吸って。
それから、きちんと俺のことを見て、とつとつと、自分の気持ちを言葉にした。
「松本君が駄目なんじゃないんだ。オイラが駄目なの。
人を好きになる気持ち、忘れちゃったんだと思う。
ん、と……違うな……。
多分、もう誰も好きになりたくない」
「…………」
「ふっ……わかんないよね、ごめん。
うまく言えないけど……。
相手が誰であっても、オイラはもう、そういう気持ちにはなれないんだと思う」
一生懸命、俺を見て言ってから、すまなそうに視線を下げる。
結んだ唇が微かに震えてることに気がついて、追い詰めたらいけないと思った。
恐らく俺は今、この人に言いたくないことを言わせようとしてる。
でも、聞きたい。
あなたのことを、もっと知りたい。
凄く辛い想いを抱えてるのかもしれないけど、誰かと一緒に居ることで癒されることだってあるでしょ?
俺、あなたが本当に好きなんだよ。
何か吐き出せることがあるなら言って欲しいと思って、こちらから水を向けた。