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冬のニオイ

第11章 アオゾラペダル

【智side】

翌朝、9時きっかりにスマホに着信があった。
キタムラさんだった。

土曜日で休みなのを良いことに、オイラは二度寝、三度寝とアラームを掛け直して寝てて、鳴りやまない電話で仕方なく起床したもんだから。
画面に表示された知らない番号を見ても寝ぼけた頭が上手く働かなかった。

いつもなら出ないんだけど、なんか、はずみ? で出ちゃったんだよなぁ。

「お休みの日に朝早くから申し訳ございません。
昨日〇〇〇でお会いしましたキタムラでございます。
おはようございます」

キタムラ? ってしばらく頭の中を検索して、昨日の子供の人か、って思い出した。
そう言えば名刺をもらった時、自分のも渡したんだった。

ぼんやりと昨日のことを思い出しながら、取りあえず朝の挨拶をして。
その後は丁寧な口調でいろいろ前置きを言われてたけど、実はちゃんと聞いてなくて良く憶えていない。

気がついたらオイラは自分の住んでるマンションの場所を説明してて、あれ? なんでウチを教える必要があるんだ? って突然我に返った。

なんでウチに来るんでしたっけ? と訊くと、キタムラさんが寝ぼけてるオイラに気がついて、声に笑いを含ませながら改めて教えてくれる。
昨日の件で話したいからお迎えに上がります、って。

ぼーっとしてるとどんどん話を決められてしまいそうだったから、慌てて迎えを断って待ち合わせにしてもらう。
こちらから家の近所にあるファミレスを指定して、2時間後に、ということになった。

本当なら面倒だからスルーしたいところだけど。
昨夜見た子供の必死な泣き顔と、あとは、潤のことがあるから。
きっと潤が気にして、その後どうなったのかと訊いてくるだろう。



昨夜は潤がオイラを心配して、送る、ってきかなくて。
もう流されたくなかったから、ダメ、って何回も言って断った。

「部屋に上がり込んだりしないよ。
そんな顔見たら、心配で一人で帰せないでしょ」

「ダメ、けじめはちゃんとしたい」

「マンションの入り口まででいいから、ね?」

ふざけてるみたいに、ね? って妙に可愛く言うから、オイラはちょっと笑ってしまって。

そしたら潤も嬉しそうに笑って。

「さ、行こう」

オイラの手を引いて、道も分からないのに歩き出そうとするんだ。
あれには参った。


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