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冬のニオイ

第12章 TOP SECRET

【翔side】

後ろで見守ってくれてる智君の気配を感じながら、定規にシャープペンを当てて線を引いてた。

10年ぶりに会った智君は、とても綺麗だった。

昨夜はすっかり感情的になってしまって、子供の姿でなかったら大分やばかったと思う。
もっとも大人の自分では、俺はきっと智君の前には出られなかった。

一目会いたいと思いながら、俺を見るあの人の顔を想像すると怖くて。
もしも叶うなら、遠くからそっと元気な様子だけでも確認出来れば。
そう思っていた。

思いがけず与えてもらえた最後の機会。
俺に与えられた時間は、残り約2週間。
1月の25日まで。
それまでに、俺は何をしてあげられるんだろう。

唯一人の大切な人。
智君、貴方に。



「タツオミ、少し休憩しよっか。
寒くない? ココア飲める?」

昔と変わらない、優しい、おっとりした話し方。
子供と話す時も、相手が子供じゃないみたいに、一人の人間としてちゃんと接してくれる。

あのね、オイラね、って、ゆっくり言葉を選びながら伝えてくる、朴訥とも言えるような誠実さ。
気難しいと言われるような人も毒気を抜かれるのか、顔が優しくなって素の自分を晒してしまうんだ。
かつて、そういうシーンを何度も見た。

「ココアッ、飲むっ」

「じゃぁ、こっちにおいで。
そこは少し寒いから」

「うんっ」

笑うと目がタレて、ふにゃっ、ってなるのも変わってない。
困った時や真剣に考えてる時に、思わず口が開いちゃうところも。
片方の眉だけ上がっちゃうところも。

涙が出そうになるのを誤魔化すために、俺はわざと元気いっぱいに返事をする。

「良かった、ココア好き?」

「すきっ」

智君もね。
今でもココアが好きなんだね。



打ち合わせ用のスペースなのかな。
連れて行かれたテーブルで、出してもらったココアを飲んだ。
ちょっと気を抜くと泣きそうだから、湯気で顔が見えなくなればいいのにと思う。
カップに息を吹きかけていると、俺を見て微笑んでる智君と目が合った。

相変わらずの猫舌なんだろう、冷ましてから飲むんだな。

「ん?」

「ううん。へへっ。
さとしくん、ネコジタだもんね」

言ったら驚いた顔をされた。
話を逸らそうと、俺は飾られていた一級建築士の合格証書を指さす。

離れていた間の貴方のことを、もっと知りたい。


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