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冬のニオイ

第13章 Cool

【潤side】

智の会社へ車を取りに行くと、入口でセキュリティをかけている智本人と鉢合わせした。

ラッキー。
嬉しくて顔が笑ってしまう。

「智っ、おはようっ!
電話したけど出なかったから丁度良かった。
ランチ一緒に……って、その子は昨日の?」

昨日見た子供が智と手を繋いでいる。
俺を見て神妙な顔で、おはようございます、って挨拶した。

「潤」

智は俺を見て、困ったような照れたような顔で、ちょっと笑った。

良かった。
昨夜はあれからどうしたか心配してたけど、まだ俺のこと名前で呼んでくれてる。
嫌われてるわけじゃない。

「ええっと、その子は?」

「うん、ふふっ。
今日は夕方まで一緒に遊ぶことになった」

「は?」

何だか楽しそうに笑ってる。
俺が驚いてるのが面白いんだろう。
子供を見下ろすと、意外にもしっかりした口調で話しかけられた。

「お兄さん、きのうはごめんなさい。
今からさとしくんと出かけるの。
お兄さんもきますか?」

「へ? 俺も?」

子供はこくりと頷いた。

「お兄さんがどういうヒトかしりたいから。
さとしくんのこと、だいじにしてくれる?」

智がゆっくりと子供の隣にしゃがむ。
繋いでる手をそのままに、もう片方の掌で包むように握って優しく言い聞かせた。

「タツオミ。
怖く見えるかもしれないけど潤は優しいよ。
予定があるかもしれないだろ。
お休みの日の邪魔をしたらダメだよ」

「いや、邪魔なのはどっちかっていうと」

「潤」

思わず本音を口にしたら、珍しく智に睨まれた。
ったく、優しいんだから。

「ハイハイ、いいですよ。
どこに行くの? 俺、車出すよ」

智がホッとしたように笑う。
一緒に居られるなら何でもいいよ。



子供の指示で運転して、到着したのは都心にある大きな公園だった。
智と二人、後部座席に並んで座った子供はビックリするほど道路に詳しくて、路上パーキングへも難なく案内してくれる。

「タツオミ君だっけ?
随分道路に詳しいんだなぁ。
すげぇなぁ」

智は運転しないから抜け道なんかには今一つ疎いけど、この子の頭の良さには俺と一緒に感心してた。
これで一年生、ってのは凄い。

俺は、自分自身は動物も子供も普通に好きだけど、相手からはあまり好かれない。
でも、このぐらい大人と対等に話せる子だったら、問題ないだろう。


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