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冬のニオイ

第14章 Face Down

【智side】

「「うわ~~~…………」」

オイラと潤は、その家の門が見えてきた時に、二人揃って思わず声を上げた。

キタムラさんに連絡した後、迎えに来てくれると言うのを断ってナビを頼りにハマダ家へ向かった。

ハマダ家?
これは、むしろハマダ邸だな。
っていうか屋敷だよ。

「すっげぇ……ホテルかと思った……」

「オイラも……」

これって、郊外によくある雰囲気重視のリゾート型ホテルというか。
いや、一応オイラは建築を学んだから、リゾートホテルじゃないのはわかるけどさ。
〇〇風、じゃなくて、本物のヨーロッパの建築様式だ。

恐らく建てられたのは明治あたり。
修繕しながら維持するだけで、下手をすると毎年新築の家が建てられるよ。
庭も、これじゃぁ本物の植木職人が必要だろう。

「何か俺、落ち込むわぁ……」

玄関へのアプローチをゆっくり運転しながら潤が言う。
そう言いたくなる気持ちはとても良くわかる。
まぁ、オイラは在来の方が好きだけども、これだけの作品は一生に一度携われるかどうか、って代物だ。

「すごいよねぇ」

他人事みたいにタツオミが言った。

「お前んちだろ?」

「オレ、もっとニンジャヤシキみたいなのがすき。
かべが回ったり、ヒミツのつうろとか。
かくしべやとか」

「あ、わかる、俺も子供の頃憧れたわ」

ふふっ。
潤と子供が対等の友人みたいに喋ってて面白い。

「多分それ、この屋敷には全部あるよ」

「えっ、そうなの?
さとしくん、なんでわかるの?」

「戦前からあるこれだけ大きな石造りの屋敷だもん。
その当時の当主は国の重要人物だと思うよ。
地下通路を通って敷地の外に出る逃げ道とか、絶対あるよ。
んふっ。忍者もビックリだな」

スカイツリーを初めて見た修学旅行生みたいに、3人で、へぇ~、だの、ふーん、だの言ってるうちに、車寄せに立っているキタムラさんの姿が見えてきた。



一室に通されて紅茶をいただく。
キタムラさんがオイラ達に何度も謝ってお辞儀をするから、見ているこっちが恐縮した。
貫禄がある人に本気で謝罪されると、どうにも居心地が悪い。
オイラもつられてペコペコと頭を下げてしまって、しばらくそれが続いた。

それから、ようやく。
意を決したようにキタムラさんが口を開いた。


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