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冬のニオイ

第14章 Face Down

【智side】

「タツオミ様、では、私は大野さんとお話がございます」

「うん」

「松本様にもご同席いただいてよろしいのでしょうか」

「……うん、キタムラさんにおまかせします」

タツオミは丁寧な口調でキタムラさんに告げると、立ち上がる。
キタムラさんはいわゆる使用人の立場なのに、ちょっと違和感があった。

いずれはタツオミがこの屋敷の当主になるんだろうから、言葉遣いとかもきちんと教育しているのかな。
でぇく上がりのオイラとはエライ違いだ。
ウチのじーちゃんなんて声はデカイし、動くと必ずドタドタと大きな音を立てて、本物のてやんでぇだったもんなぁ。

「ではタツオミ様は、どうぞお昼寝をなさってください」

「うん、わかりました。
さとしくん、オレ、おひるねタイムだから見おくれないや、ごめんね」

子供はさみしそうに笑って、思いついたみたいに右手を持ち上げると素早く指を動かす。
じゃんけんをするみたいに、グーとかチョキみたいな形を作ってて、それがパッパッと切り替わった。

何だろうと見守ってると、最後に左手を右手でスッと丸く撫でてから、両手を重ねて胸に当てるようなしぐさをした。

「ん?」

「しゅわだよ」

ああ、そっか。
今まで普通に会話してたから気にならなかったけど、タツオミはもしかして手話の方が話しやすいのかな?

「今のはどういう意味?」

「かえり、きをつけてね、っていみ(笑)」

「そっか、ありがとう。
今日はオイラも楽しかったよ」

笑いかけると、タツオミはこっちに向かって手を伸ばそうとして、思いとどまったみたいにやめた。

「またね、さとしくん。
きょうはありがとう。
お兄さんも、またね」

「うん、おやすみ」

「おお、踊りカッコ良かったぞ」

タツオミがバイバイってするのに、潤と二人で手を振り返した。

「…………」

厚みのある一枚もののドアが重く閉じるのを、何となく大人3人で見送る。

キタムラさんが、長く大きい息を吐いた。


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