冬のニオイ
第14章 Face Down
【潤side】
「智?」
「…………」
反応が無い。
これ以上見ていられなくなって、俺は声を大きくする。
「智、もう帰ろうっ。
気分が悪いなら、ここから出た方が良い。
立てる? 俺につかまって」
肩に腕を回しても動こうとしないから、腋の下に手を入れて立たせた。
「大野さん、これを」
メモを差し出すキタムラさんから、もぎ取るようにそれを受け取って自分のポケットに入れる。
「松本さん」
「すみませんが、僕達はこれで失礼します。
智、歩いて」
上流階級の挨拶なんてわからないから、軽く会釈だけして智を腕に抱えるように歩き出した。
「松本さん、お待ちください。
お見送りいたします。
お待ちくださいっ」
「結構ですっ」
悪いけど、この家の子供を心配してやる優しさは俺にはない。
今大事なのは、この人だけ。
抱えた腕からも震えが伝わってくる。
歩く足元がおぼつかない。
まるで、あの日のように。
ホテルの廊下を、この人を抱えながら歩いたことが思い出される。
酔ってはしゃいでいるようにしか見えなかったけど、あれは本心を隠しての行動だったんだ。
サクライショウという名前がこの人を動揺させたことは間違いない。
そいつがあなたの何なのか俺にはわからないけど、連れ出さないと。
ここに居たら、この人が壊れてしまう気がする。
「あの、大野さん、もう一つお願いしたいことがっ」
キタムラさんの声が追いかけてくる。
うるさい、と怒鳴りたい気持ちを抑えて、無視してドアへ向かった。
ホテルみたいにでかい屋敷だけど、玄関までの通路なら憶えてる。
「ぼっちゃんが、またあなた様に会いに行かれるかもしれません。
その際は、どうかっ。
どうか、ぼっちゃんにお付き合いくださいっ。
お願いいたしますっ」
「うるせぇっ!
いい加減にしろっ!
ついて来んなっ!!」
怒鳴りつけて、屋敷を後にした。
「智?」
「…………」
反応が無い。
これ以上見ていられなくなって、俺は声を大きくする。
「智、もう帰ろうっ。
気分が悪いなら、ここから出た方が良い。
立てる? 俺につかまって」
肩に腕を回しても動こうとしないから、腋の下に手を入れて立たせた。
「大野さん、これを」
メモを差し出すキタムラさんから、もぎ取るようにそれを受け取って自分のポケットに入れる。
「松本さん」
「すみませんが、僕達はこれで失礼します。
智、歩いて」
上流階級の挨拶なんてわからないから、軽く会釈だけして智を腕に抱えるように歩き出した。
「松本さん、お待ちください。
お見送りいたします。
お待ちくださいっ」
「結構ですっ」
悪いけど、この家の子供を心配してやる優しさは俺にはない。
今大事なのは、この人だけ。
抱えた腕からも震えが伝わってくる。
歩く足元がおぼつかない。
まるで、あの日のように。
ホテルの廊下を、この人を抱えながら歩いたことが思い出される。
酔ってはしゃいでいるようにしか見えなかったけど、あれは本心を隠しての行動だったんだ。
サクライショウという名前がこの人を動揺させたことは間違いない。
そいつがあなたの何なのか俺にはわからないけど、連れ出さないと。
ここに居たら、この人が壊れてしまう気がする。
「あの、大野さん、もう一つお願いしたいことがっ」
キタムラさんの声が追いかけてくる。
うるさい、と怒鳴りたい気持ちを抑えて、無視してドアへ向かった。
ホテルみたいにでかい屋敷だけど、玄関までの通路なら憶えてる。
「ぼっちゃんが、またあなた様に会いに行かれるかもしれません。
その際は、どうかっ。
どうか、ぼっちゃんにお付き合いくださいっ。
お願いいたしますっ」
「うるせぇっ!
いい加減にしろっ!
ついて来んなっ!!」
怒鳴りつけて、屋敷を後にした。