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冬のニオイ

第15章 Carry on

【智side】

突然出て来た名前に、わけがわからなかった。

タツオミに会ったのは昨夜のこと。
そのタツオミが今日になって一人でオイラのところに来て、交通事故に遭ってオイラのことを知ったって。

タツオミのお世話をしてるキタムラさんが、一緒に事故に遭ったのは翔くんだって言った。

それから。

それから……。

抱えられて歩く間、何かにつまづいて一回転んだ。
手足が痺れてる。
息が苦しくて、吸おうとするのに空気が入って来ない。

苦しい。
もっと吸わないと、酸素、足りない。

精一杯呼吸してるのに、ダメだ。
体がおかしい。
やっぱり、風邪引いたのかな。
熱が出たのかも。



車の後部座席に押し込まれて、寝かされた。
体の上に潤が自分のコートを掛けてくれる。
震えが止まらない。

「智、寒い? 大丈夫?
家まで送るから。それとも俺の家に来る?
具合悪そうだから病院に行こうか?
でも休日だから調べないと。
かかりつけのクリニックとかあるの?」

潤の声がする。
待って、そんなに次々といろいろ訊かないで。
オイラ、頭がついて行かないよ……。

「びょういん……」

入院してる、って言ってた。
意識が戻ってないって。
翔くん、死んじゃうの……?

「びょういんに行かないと……」

「え? 何? ごめん、もう一回言って?」

車が動き出して潤の声が前の方から聞こえた。
息が苦しくて、まともに喋れない。
涙が勝手にどんどん出て来る。

「しょ、しょおくんが、死んじゃう。
じゅん、降ろして。
オイラ、びょういんに行かないと」

キタムラさんは何て言ってた?

本屋。

本屋の事故だ。
タクシーで見た。

前半分が潰れた車と、血の跡。

あれが、翔くん?
嘘だろ?

肘に力を入れて体を起こす。

「じゅん、車止めて。
オイラ、しょおくんの、びょ、びょういんに行かないと」

何度も息継ぎしないと喋れない。
声が変な風に震えて、引っくり返る。
口が回らない。

「はぁ!?
一人で歩けないのに何言ってんの!?
駄目っ!!
さっきの話なら、キタムラさんが入院してる人は意識戻ってない、って言ってたでしょ?
行っても面会出来ないんじゃないの?
まず貴方が落ちつく方が先っ!
俺の家に行くからねっ」

潤に怒鳴られる。
車が曲がって、揺れた拍子に体がシートに倒れた。

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