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一夜の睦言

第1章 一夜の睦言

「――そんな風に思われてたのか……」

 そう口にした彼は、私の唇を指でなぞってきた。

「酒の力を借りたのは否定しない。でも、だからって君をからかったつもりはない。俺は、本気で……」

 私の身体は彼に引き寄せられた。

 彼の広い胸に抱かれ、私はそのまま固まってしまう。

「すまない。結局は俺の自己満足で君を傷付けてしまったんだな……。君も俺を好きかもしれないなんて、傲慢にもほどがある……」

 そう言いながら、彼の腕の力は強さを増す。

 私は何も言えなかった。
 ただ、彼の温もりと胸の鼓動を感じ、瞼の奧から熱いものが溢れて零れた。

 彼は自分を、『傲慢』だと言った。
 でも、彼よりも私の方がよっぽど欲深い。
 彼の本心を知ったらなお、彼をずっと私に繋ぎ止めたいと強く思ったのだから。

 私は頭をもたげた。
 そして、口元に弧を描き、そのまま彼の唇に私のそれを重ねた。

 彼は驚いたように受け止めていたけれど、そのうち、彼の方から深く口付けてきた。

 静まり返った部屋に、舌と舌が絡み合う水音が響く。

 どちらからともなく唇を離すと、透明な糸が名残惜しげに繋がっていた。

 私からのキスが答えだと受け止めたのか、彼は昨晩のように私を抱いた。

 ふわりと浮いているカーテンの隙間からは、夜明けの陽光が漏れてくる。

 あと、どれほど愛されるのだろう。
 朦朧としてきた意識の中で、私はぼんやりと考えていた。

[一夜の睦言-End]
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