三匹の悪魔と従者たち
第8章 持たざる者
「好きな人にそんなこと言われたら、したくなっちゃうわ。 わたくしおかしいのかしら?」
困ったみたいに頬に手を当てて、アイシャが本気で悩み始める前にユーゴは彼女に軽く口付けた。
「愛してるよ」
ジンの言うとおりにしてると、今日は愛の大放出になってしまう。 ユーゴが苦笑いしながら彼女の肩を抱いた。
あんなに有り余ってた欲が今は静かで、それよりもまるで、彼女の陽光色の髪のようにじんわり温かな気持ちが湧いてくる。
そしてそれが心地良い。 ユーゴが静かに話し続けた。
「ご両親にも話をしておいてくれる? そのうち直接挨拶するつもりだよ」
いつの間にスレイがお茶のお代わりを持ってきてくれたのだろうか。
ユーゴが室内のデスクに目をやると、そこには新しいポットが置いてあった。
久しぶりに真っ直ぐに彼女の目を見て、突然愛を囁いてくるユーゴに戸惑ったアイシャだったが、今日の彼はとても穏やかだ。
それがうつったみたいに、以前みたいに逃げ出したくなるような気持ちが自分にも無い。彼女の方もまた寛いだ気分でいた。
どんな関係になっても、互いに積み重ねてきた年月がユーゴとアイシャの根底にある。
彼がいつもアイシャの家のことを気にかけてくれていたのを彼女は知っていた。
自分の両親が良い大人ではないのは、当然彼女も分かっている。 彼に良く思われていないことも。
それでもユーゴはきちんと礼儀を尽くそうとしてくれているのだ。
「わたくしは、そんな誠実なユーゴを尊敬していたわ。 他人を悪く言わないのも、優しいところも謙虚なところも。 貴方は心根が綺麗なの」
「悪魔に言うことじゃないよ」
「だってわたくしにとっては貴方はずっと天使なんだもの」
うっとりとユーゴの肩に頬を寄せてもたれかかってくる、アイシャの体温と柔らかな感触に癒されながら、なんにしろ、ユーゴはジンに心の中でお礼を言った。