三匹の悪魔と従者たち
第9章 地上の月
ここドワーフの世界では、上背が小さければ小さいほど、顔立ちがシンプルなほどに美しいとされる美的感覚が存在している。
先程からサタンの傍に寄り添っているあの男──────色彩はドワーフに似ているが、あれはダメだ。
まず、小山の如くデカすぎる。 くっきりとした目鼻立ち。 まるで猛禽類のような鳶色の目が、常に周囲を警戒していた。
黒のスーツに身を包み、隠しきれない屈強そうな身体から、長い手足を持て余し気味に、隣の女性に時々話し掛けている。
「おや?」
たくさんの患者を診てきたオレの経験から、その女性には、ドワーフの血が入っているようだと気が付いた。
それにしては若干背が高く、顔は小さく鼻も高い。
美しくはないが、魔族の要人なのだろうか。
「ふむ」あれはおそらく、魔族との混血とみた。
魔族は性に奔放な種族だと聞く。
貞淑な女が当然とされるドワーフの中で、彼女に食指を動かす者はまず居ないだろう。
そしてさらにいうと、あれが魔族ならば小さく細くと、中途半端な外見である。
異質なあの女性は、おそらく男に恵まれていないに違いない。
保守的なドワーフの中で好奇心に富み、なおかつ柔軟な思考はオレの美点である。
(いうなれば、人助けというところか)
そんな気分で、大きく開け放されたバルコニーに一人で向かった彼女を追った。
「地上の夜は久しぶりだ……今晩は星の降る夜だな」
そんな風に目を細めて心地良さげに髪を揺らしながら呟いた、そんな彼女を、ほんの一瞬だけ美しいと思わないでもなかった。