三匹の悪魔と従者たち
第9章 地上の月
牧歌的な畑が広がる里は闇に包まれてなりを鎮め、魔界とは異なる、どこまでもなだらかな丘陵がいくつもの生命の息吹を蓄えて、今は月や星々に照らされている。
室内から聞こえる話し声や笑いに混ざり、風に揺れる木の枝や葉擦れの音がゴウキの耳をくすぐってきた。
「魔界も少しはここみたいになればいいな」
豊穣さを約束されたようなこの土地。
彼が多少の危険は必要だと弟たちに話したことは事実ではあるが、絶妙なバランスというものはきっと存在しているはずだ。 そう思っている。
「そうなるさ」
彼に並んでゾフィーが言った。
今晩の彼女はこの場に相応しく、濃い紫のドレスに身を包んでいた。
ノースリーブにホルダーネックというほっそりと爽やかな風貌にそれはぴったりで、ちょうど少女と女の境目といった、危うげな色気を醸し出していた。
月明かりの下の、そんなゾフィーをゴウキは綺麗だと思う。 だが言えない。
彼女を目の端に置いて、彼は考えていた。
こないだの、あの夜のように幸福な気持ちになるのはゾフィーと体を合わせるほんの一瞬で、それは強いアルコールと似ている。
言えない言葉が積もっていく。
想いばかりが募っていく。
対等でありたいと願いつつも、自分の勝手でゾフィーを縛っている。
彼女と子供を授かることさえ、まるで道具のように扱ってやしないか。
それは片思いなどという美しいものではなく、偽りや欺瞞にまみれた、まるで暗く重苦しい霧のように、ゴウキの心にまとわりついていった。
本音を言うと、ユーゴが羨ましかった。
主従関係を止めてもアイシャは彼を選んだのだから。
かといって、いっそジンのような潔さも自分にはない。
「めんどくせぇ……」
考え始めるといつもぶち当たる壁に、今晩も頭を押し付けて悪態をつくかのように、ついそんなことを呟いた。