三匹の悪魔と従者たち
第9章 地上の月
「なにがだ? ゴウキお前、最近おかしかないか。 やたらうわの空になったり、夜の方も……少ないし」
毎日顔を合わせているゾフィーには、彼のそんな変化には敏感だった。
そもそも、ゴウキが分かりやすく顔に出る性格だというのもある。
「別にそればかりじゃねぇよ。 ホラ手貸せ」
「ん?」
「そんなカッコしてる時に綱渡りしてんじゃねえ。 落ちたら服が汚れるぞ」
バルコニーの柵に登って、器用にひょいひょいと歩いている彼女に向かってゴウキが手を伸ばし、「服の心配か? ここは四階なんだがな」苦笑した彼女がドレスの裾を捲り上げ、軽やかに室内側の地面に降り立った。
「それにしても、なんで今晩は私だけが呼ばれたんだろうな?」
あらわになった形の良い脚を隠そうと、ゴウキが彼女を周りの視線から守るために慌てて壁になったが、ゾフィーはそんな彼を不思議そうに見上げた。
「……ったく。 とりあえず戻ろうぜ。 身内の俺は別としても、ドワーフの集まりにいかつい魔族の用心棒が親父を囲んでたら、向こうが萎縮するだろうが」
「そうか……ふふ。 私のこんな身でも、役に立つことはあるんだな」
嬉しげな様子で彼に先立って戻っていく、そんなゾフィーを複雑な気分で見守りながら、あとをついていくゴウキであった。