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三匹の悪魔と従者たち

第5章 ユーゴ × アイシャ




「スレイ」


スレイとそう呼ばれた、スラリとした体躯にピシッと黒のスーツに身を包んだ中年の男性。 ユーゴの乳母というわけでは無いが、彼が子供の頃からの側近である。

スレイの登場にやっと味方を得たという体のアイシャが両手を腰に当てて、雇い主のユーゴに苦情を洩らした。


「そうよ。 だって仕事だもの。 このままじゃここをクビになってわたくし、幼い兄弟共々路頭に迷ってしまうわ」

「僕たちだって、すでに兄弟みたいなものだし。 それにアイシャだし」

「あら。 そうは言いますけどね、わたくしだって女らしく成長したわよ!」


それでもこの雇い主はちっとも待遇を変えてはくれないのだ。 アイシャが不機嫌を全面にアピールしながら今度は商品の売り込みに走る。


「そういえば、ジン様の従者のルナなどは最初から女性らしかったですな」

「ルナさん……いいよね。 あの人、綺麗でなんだか雰囲気も柔らかそうで」

「わっ……わたくしも育ったのよ胸も柔らかいしホラっ! ユーゴなら特別に、触ってみてくれてもいいわよ?」


スレイとルナのことを話していたユーゴが、胸を張って自分の方に寄せてこようとしているアイシャのそれを避けて真顔になった。


「なに言ってるの……アイシャのはただの脂肪でしょう? なんにしろ、役目のことは適当に上手く言っとくから心配しなくっていいよ」


胸が脂肪でなくて一体なんなのだろう。 男の人って普通、胸が大好きなんじゃないの!? そうアイシャは言いかけて、淑女にしては下品な発言だと思い直し、ぐっと言葉を呑み込んだ。


「気を使ってくれて、ずいぶんご親切ね!!」


怒りの矛先が見付からぬままにドカドカと部屋を出ようとするアイシャの背中に、のんびりとしたユーゴの声が追い討ちをかける。


「やっと帰ってくれるの?」

「っお手洗いだわ!!!」


バタン!!

そう音を立ててドアが閉まったあともドカドカドカと廊下を大股で進む音が小さくなっていき、やっと落ち着いたとばかりにユーゴがため息をついた。



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