三匹の悪魔と従者たち
第5章 ユーゴ × アイシャ
「いつの話なの……それに普通に知ってるよ」
「え…えっ!? なんでっ?」
ハタチにもなる男に言う言葉じゃないとばかりにユーゴがあしらうと、それにアイシャが激しく狼狽えた。
「うるさいなあ。 色々とあるの」
「な、なんで…………?」
いちいち説明するような類いのことじゃない。
基本的にユーゴは野暮なことは好きではない。 そんな自分を知ってる癖に、しつこく先細りするような声で詮索してくるアイシャを煩わしく思った。
「もういいでしょ? アイシャには関係無いし、結婚とかこれも仕事なんだから」
「わたくしの仕事は無視するくせに?」
それに対して返答する前に、彼女の、今までにない強い口調で遮られた。
「わたくしのことも無視するくせに!!」
ユーゴは会話の脈絡が理解できなかった。
しかしそう言ったアイシャは、彼とスレイが口を挟めない位に怒りに肩を震わせていた。
「ユーゴのバカっ! フニャチンの役立たたず!!」
「ちょっとそれ酷……アイシャ?」
「ふ……うぅぅ…」
烈しくユーゴを罵ったあとに俯いたと思うと、今度は彼女の悲痛な嗚咽が部屋に響く。
「え、なんで」
「っうわあああああああああああん!!」
およそ年頃の女性とは思えない、ボロボロの顔で盛大に泣き声をあげて、アイシャはそのままユーゴの部屋を前のめりにコケそうな勢いで飛び出して行った。
「ちょっと、待って」
ささやかな彼の静止も虚しく、開け放されたドア口からエコーのように廊下に響くそれが消えていくまで、ユーゴはぽかんとその場に立ち尽くしていた。