三匹の悪魔と従者たち
第5章 ユーゴ × アイシャ
彼がテーブルの上を見ると、アイシャが弟に持ち帰ると言っていたお菓子もそのままだった。
それに目をやりながら、参ったと言わんばかりに愚痴交じりの独り言が口をつく。
「もーなんなのあれ。 なんかの核弾頭なの」
話が通じない。 ああいう手合いはユーゴの最も苦手とするところだ。
「あれはさすがにユーゴ様が悪いですよ」
「僕? なんで」
自分のそんな性質はいつも冷静なスレイも同じだと思っていたユーゴは彼の意外な言葉に目を開いた。
「アイシャが一日も欠かさず七年間ここに通っていた理由を、ご自分の胸に手を当てて考えてご覧なさい」
「彼女はああ見えて仕事熱心だから?」
そう答えた彼に、目を伏せて首を横に振りつつスレイも黙って室を出て行って、その場に取り残されたユーゴは再びどさりと椅子に腰を落とした。
理解できない。
自分が彼女を泣かせた。
よくは分からないが、なんとも後味が悪かった。
アイシャは昔からよく笑うしよく泣く。
けれどもあんな風に自分のことで烈しく泣く彼女を初めて見た。
…………どちらかいうと、暴言を浴びせられた自分の方が被害者だと思うのだが。 理不尽な思いも感じつつ、ユーゴは素直に自らの胸に手を当てては首を傾げたのだった。
その日から、アイシャはぷつりと城に来なくなった。