三匹の悪魔と従者たち
第5章 ユーゴ × アイシャ
(そもそも、なんでアイシャはあの時あんなに怒ったんだ?)
ユーゴはコンコン、とデスクの端を指先で叩きながら当時の出来事を思い出そうとした。
自分が童貞じゃなかったってことか?
性欲の強い魔族がこの歳でないなんてあり得ない。 余程の世間知らずでもなければ知っているだろう。
「待て。 なにしろアイシャだからね」
彼女の方は間違いなく処女だろうし。
『わたくしの仕事は無視するくせに』
無視というか、ああいう主従関係を否とする自分はどちらかというと逆なのだが、結果的にそれは否めない。
そうなら確かに自分も悪い。 説明不足だったと思う。
『わたくしのことも無視するくせに』
でも、これは違う。
そんなことが理由だとすると、こんなに彼女を心配している自分はなんだというのか。
『わたくしは、あったかい?』
この世界では有り得ない、太陽みたいな髪と青い空の目をして彼女は自分に訊いてきた。
そんな下らない会話を、なぜ今になって思い出すんだろう。
「………全然無視してないってば!」
アイシャに謝ろう。
そして直接会って話をしないと埒が明かない。
ええと、スレイが当てにならなきゃ誰か。
城内の面々を思いめぐらし、そんな時間も惜しくなり外套だけを手に取って早足で戸口へと向かう。