三匹の悪魔と従者たち
第8章 持たざる者
「おれみたいに持たざる者の考えからすると、その土地から魔物が派生するという意見は違うね。 むしろ逆で、その土地の穢れ───────強大な魔物の痕跡、いわばその排泄物に呼び寄せられて彼らが集まっているだけってことじゃないのかな」
「難しくて言ってることがよく分からん」
単純明快なものを好むゴウキからすると、ジンはどうも抽象的でまどろっこしい言い方をする癖があると思っていた。 そんな彼に対し、ゴウキはいつも途中で思考を放棄してしまうのだ。
「有り得るかな。 子供の時から思ってたんだけど……僕は確かに魔物に襲われやすかったんだけど、彼らはいつも、なんだか怖がってるというか、怯えてる感じがしてたんだよね」
「自らに欠落している、そして絶対的な存在に対してはそうなるものさ。 知能の高い魔物はそうでも無かっただろう」
「ん………確かにそうだね。 逆に逃げられてた」
逆にこの二人は通じるようだ。 それは別にしても、ゴウキらが話し合いの席にジンの意見も聞くのは、彼の情報量の多さと独自のものの見方にあった。
「知能という点では使役される使い魔がトップだが、それを呼ぶエルフやドワーフに、黒髪や黒い瞳が居ないのは周知の事実だね。 そしてそんな彼らの精神が魔物を作り出している確率が高いとしても、それは今は置いといてさ。 魔物を呼び寄せる穢れをコントロールすればそれを利用出来るだろう?」
「そういう話なら、魔物のクソが城の要塞とかに使えるってことか?」
「………それなら、公に出来ない話だよ」
「なんで」
視線を落として考え始めた様子のユーゴにゴウキが疑問を投げる。
「っあん!」
「…………」
それに応えたのは少女のかん高い喘ぎだった。
「アリス。 大人しく出来ないのかな?」
「だってえ……動いてっ…」
甘く響く声音でジンがたしなめて、彼女の腹の辺りに手を回し、軽く手前に引き寄せるとアリスが切なげにふるふると半身を震わせた。
「ああ、そういえばエルフ族も魔術を使うよね?」
「んっう、うん。 エルフ自身には魔力はないけれど、自然の力を借りることで、魔術が使えるわ。 ……土には種類によって色々な効能が」
ジンの問いに細々と答えたアリスだったが、それきり口を閉じたかと思うと、彼にもたれかかってすうと目を閉じた。