三匹の悪魔と従者たち
第8章 持たざる者
ちょっと待て。ゴウキがなにかを思い出したように顔を上げた。
(確かあれは、午後一の予定だったはずだ)
「お前午後、商談……ってまさか…もちろん、今からだよな?」
「ああ、アリスがああやって居てくれたお陰で、15分程で終わったね。 相応の見返りをしてくれるドワーフと違って、彼らは好き勝手な要望が多いから。 事前に資料見直したら馬鹿馬鹿しくなってさ。 しかも時間も守れないとくる。 お陰でランチもまだ途中だよ」
うわ…と二人が乾いた声をあげる。
「まあ見ての通り、アリスはエルフだからね。 おれも魔族よりあっち側に近いこんな外見だし。 身内みたいに馴れ馴れしく来られても困るよね……当分は放っといてくれると有難いんだけど」
こっちが真面目に仕事してたってのにお前って奴は。 盛大なため息をつくゴウキの顔にそう書いてあった………ように、ユーゴからは見えた。
「アリスにゃなんか使やいいだろ? そんな道具いっぱいあんだし」
「そんな心の通わないものを愛らしくも愛おしいおれの性奴隷に使うって? 冗談でしょ」
お盛んな魔族にとってはその辺りのことは割とポピュラーではあるが、ジンは否定派のようだった。
一方、そんなジンの言葉に心当たりがあり過ぎるユーゴは抉られた。
「心……真心だよね。 それって」
どこか虚ろな目をして沈んだ様子で呟くユーゴに兄たちが不審な目を向ける。
気分の切り替えが早いゴウキが「ああ、そういや」と言った。
「アイシャの話が途中だっけか」
「そうそれ、おれが聞いたんだよね。 ユーゴのとこで働いてる子からさ。 アイシャも成長して美しくなったね………もう数年も経てば、あれなら天上の女神だな。 なんでだかまだ少し、子供っぽいけど、ね?」
意味ありげに視線を投げてくるジンに、ユーゴは降参とばかりにうなだれた。